【完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

38 成人 55

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 広末ひろすえは、言い切った後、さいに近寄って机に落ちたスプーンを左手に握らせた。

「美味しいって言ってましたよね。まずは、たくさん美味しいものを食べて、元気になることです。それから、できることを考えましょう。どんな罪がさいさまにあっても、俺はあんたに食べ物を届けます。生きてて害になるほどの悪人も、世の中にはいるのかもしれねえけど、俺にはあんたがそんな人には見えねえ。何か悔いがあるなら、生きて、できることを考えるべきだ」

 さいがソファから体を起こした。

「あんたが今することは、プリンを食べきること。そんで、昼寝して起きたら夜ご飯を食べるんだ」

 はは、とさいが笑う。

「贅沢な生活だな」
「元気になったら、やらなくちゃいけないことがあるんだろ? 今のうちに休んでおくといいのさ」

 広末ひろすえって格好いい。
 
「なる坊も、ぼけっとしてないで食え。時間かかるんだから」

 俺は、うんうん頷いてスプーンを器に突っ込む。口にプリンを入れてから隣を見た。
 力丸りきまるは、頭を抱えていた。さっき、泣いてたな。俺の言ったのが、何か間違いだったのかもしれない。もう一回、ごめんねって言いたいけど、言っていいのか分からない。力丸りきまるを困らせて、ごめん。
 力丸りきまるは、急に立ち上がった。

「帰る」

 そう言って、まだ食べかけのプリンを手に持って出ていった。
 皆がびっくりして見ているうちに帰っちゃった。

「プリンは、忘れないんかい」

 広末ひろすえが、ぼそっと呟いて、俺は、力丸りきまるだなぁ、って思った。

「きっと、頭の中を整理して、また来ますよ」

 生松いくまつが俺を見ながら言う。
 うん、まあ、どっちでも……。
 力丸りきまるが嫌でないなら……。
 そんなことを考えて、もくもくとプリンを食べてたら、眠くなってきた。

「帰りは、私が部屋まで送りますので」

 いつの間にかソファの後ろにいたじいやが、皆に言っている。

「ありゃ、荘重むらしげさま。いらっしゃったんですか。なら、プリンを持ってきましたのに。」
「おや、私のもありましたか。いつも、ありがとうございます、広末ひろすえ殿」
「殿、なんてやめてくだせえ。慣れねえもんで。いつも、全員の分あるから、食べなかったら持って帰ってくださいね」
「では、遠慮なく。成人なるひとさまが眠たそうなので、部屋まで送ってから厨房に寄らせてもらいますね」
「はいよ」

 プリンを食べながら、寝てしまったらしい。気付いたら自分のベッドにいて、外は薄暗くなっていた。
 俺とさいは、広末ひろすえの言いつけ通りプリンを食べて昼寝して、夜ご飯を食べて、またベッドに入った。
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