【完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

34 力丸 3

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「氷が無くて。」
「そりゃ、お腹痛くなったから、仕方ないだろ。」
さいにあげようと思ったのに。」
「貰っても、さいさんも困っただろうよ。」
「美味しいから、元気になると思って。」
「あー、まあ、元気にはなるかもな。」
「飴あげるのにしたんだけど、出したら、べたべたで。」
「出した?置いてたん?食べずに?」
「うん。緋色ひいろが分からないように、ここに。」

 成人なるひとはベッドの下を指差した。

「隠してたのか。ここじゃ溶けるなあ。」
緋色ひいろが捨てた。」
「べたべたになってたなら、駄目だろ。」
「まだ食べれるのに。」
「お腹壊したら大変だからな。」
力丸りきまるは、どこに隠すの?」
「え?」
「飴。どこに隠すの?」

 飴は隠さねえけど。
 まあ、そうだな。こいつは、飴を食べただけでご飯がその分入らなくなるから、あまり貰えないもんな。
 貰ったら直ぐに食べてると思ってたよ。隠したりするんだな。
 いや、隠す余裕が出てきたのかな。今より先のこと、考えたりするようになったのか。
 いいじゃん。明日の約束とか、飴を置いといて明日食べようとか、そういう考え、大事だよな。
 何か嬉しくなった。成人なるひとは、明日もここにいる。

「大事なものは、箱とかに入れたりするかな。」
「箱?」
「宝物入れ、みたいなさ。拾った石がぴかぴかだったとか、蝉のぬけがらがきれいな形だったとか、箱にためてた。」

 成人なるひとは俺の言ったことが分からないらしく、首を傾げている。
 成人なるひとと殿下の二人の広い私室の中。成人なるひとがほとんどの時間を過ごす場所。絨毯が敷かれた一角でローテーブルにパズルをばらまいて、座り込んでいた。疲れたらもたれ掛かれるように、大きなビーズクッションが置いてある。その横の小さな棚に、俺と母上が家から持ってきた絵本が並んでいる。一番お気に入りの、団子を配って家来にする絵本は、屋敷と一緒に燃えてしまったから、母上が新しいのを買ってきた。小さい子ども用のパズルの箱が二つ。成人なるひとの持ち物は、それだけ。

「大事なもので、ちょっと隠しておきたいものは、箱に入れて物陰に置くんだよ。見つかりにくいし、自分はいつでも出せていいだろ?」
「大事なもの……。」
「今からいっぱい見つかるだろうし。宝箱、置こうぜ。買い物行って箱を見て、飴も買ってこよう。」
「買い物?」
「駄菓子屋行って、飴を買おう。雑貨屋に行ったら箱も色々あるし。ああ、いいな。買い物行こう、成人なるひと。」
「飴、広末ひろすえが作ってるんじゃないの?」
「え?そりゃ作れないことは無いだろうけど、いつも食べてるのは買ってきた飴だぜ。」
「買ってきたって何?」
「え?だから、店で。え?」

 もしかして、買い物したことないのか。まさかな。
 三年、戦場にいたって言ってたな。その前は?あれ?
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