【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
123 / 1,321
第三章 幸せの行方

24 赤璃 8

しおりを挟む
 緋椀ひまりが息を飲んだ。とても驚いた顔をして私を見ている。弟には伝わったらしい。
 初花ういかには伝わらなかったようだ。

「そんな、簡単な話なわけ、ないわ」
「簡単な話よ。分からなければ、それでいい」
「無礼者。七条ごときがでしゃばって。わたくしが結婚して差し上げなければ、殿下のお相手はもう、いらっしゃらないわ」

 成人なるひとを紹介してもらえたのは、温情であることも理解していないのか、と溜め息をつきそうになった。
 ずるずると力丸が、飛ばした護衛を引き摺ってくる。一ノ瀬いちのせ荘重むらしげも、残りの一人を回収してまとめて置いてくれた。

赤虎せきとらさまの臣籍降下の理由をご存知?」
「重要な研究所を爆破されたのでしょう?恐ろしいわ」
「それは緋色ひいろ殿下の仕業ね。確かに恐ろしい方だわ」
「え……?」
「臣籍降下の理由は、緋色ひいろ殿下の伴侶を拐って研究所で実験動物モルモットにしようとした挙げ句、足を銃で撃って傷付けたからよ。研究所が壊されたのは、救出行動の過程。だから、研究所を壊したのは緋色ひいろ殿下」

 これで、理解してくれたかしら? それとも、これを聞いても分からない?

「赤虎さまは、緋色ひいろ殿下を怒らせたから皇家から出された。皇家は、緋色殿下の方を重要と思っているということですわね。わたくしの見る目は間違っていなかった……。父に褒めてもらえるわ」

 永久に分かり合えない何かが、私たちの間にはあるようだ。

「殿下の伴侶を害したから、臣籍降下された、と言ったのよ。皇家は、あの子を殿下の伴侶と認めている、ということを理解してお帰りなさい」

 ようやくゆるゆると、初花ういかの顔に驚愕の色が浮かび上がる。
 城の敷地内を移動する、警備車両が到着した音がした。

赤璃あかりさま、緋椀ひまりさま、怪我人を運ぶために参りました」

 警備隊の服を着た者が、敬礼して挨拶をする。

「ご苦労様。手間を掛けてごめんなさいね」
「いえ。いつでもお呼びください」

 きびきびと、動けない護衛三人を車に乗せていく。

「生きてるわよね?」
「殺しませんよ!」

 私の思わず出た呟きに、力丸の声が返ってきた。やっぱり、あなたがやったわね。見えなかったけど。

「三条さま。ご一緒にお帰りになった方がよろしいのでは?」

 珍しく緋椀ひまりが口を開いた。
 ぐ、と躊躇する初花ういかに、父によく似た美貌を冷たく研ぎ澄まして告げる。

緋椀ひまりの名において、命じます。二度とこのぐうに近寄ること、相成りません」
「な、な、何を!」

 たたみかけておこう。

赤璃あかりの名において、命じます。二度と緋色ひいろ殿下とその伴侶に近寄ること、相成りません」
「尊き御名によるご命令、確かに承りました。では、三条さま、参りましょう」

 警備の者が一つ頷いて答え、感情のもって行き場が無くて混乱したままの三条初花ういかを連れて帰っていった。
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...