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第三章 幸せの行方
18 緋色 43
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「しかし、やる気で動けるとは」
「ええ。分かりやすい言い方をしましたが、まあ、そういうことなのですよ。人は、本当に気持ちに左右される生き物で、気持ちを司るのが脳、ということですね」
「興味深い話だな」
「睦峯さんは、大化けするかもしれません」
「名義上の兄弟になったが、どうだ?」
「兄ができたと言われても、孤児院育ちの私には、まあ、よく分かりません。子どものように一緒に暮らすということでもないですし。義父上は、喜んでましたよ。近々、宴会をしようと言っておりました」
「はは。酒が飲みたいだけだろう」
成人がスープを食べ終えたらしい。
「全部食えた。氷」
「粥は?」
と力丸が言う間もなく、氷のコップをあおっている。カラカラとだいぶ小さくなった氷が音を立てた。あ、むせた。急ぎすぎて水が変なところに入ったな。氷が口から飛び出して、慌てて手で掴んで口に入れている。
動いてるな……。
にひゃ、と笑う顔が可愛くて、立ち上がって近寄る。
成人は何か話そうとして口を開きかけ、氷が出そうになって慌てて閉じた。
抱き上げようとすると力丸に止められる。お前、俺の本気が見たいのか?威圧すると、耳打ちされた。
「もうすぐ立つ筈だから、手を出さないでください」
「ああ?」
と声を上げて睨むと、
「そういうの皇子として良くないですよ」
と言いながら距離を置かれた。
「どういうことだ?」
「待ってたら分かります」
じっと成人を見る。ご機嫌で、氷を口の中で転がしている。可愛いだけなんだが……。
「といえ」
氷が口の中から無くなったタイミングで、ふとこちらを向いた成人が言った。
にやっと力丸が笑う。
近寄ろうとすると、また腕を掴まれて戻された。
自分はちゃっちゃと近寄って、ベッドの机をずらし、成人の体に絡んでいた布団をよけて一歩引く。
「なる、トイレの場所分からないだろ? 連れて行ってやるよ、おいで」
ああ、そうか。成人はトイレに自分で行きたい。
ふらふらと方向転換する。ベッドの端に足を出して。
落ちる、と手を出しかけたが、力丸に腕を掴まれて留まった。ずるっとベッドから落ちて尻もちをついた。少しは足に力が入っていたのか痛そうな様子はない。といえ、といえ、と言いながら、ベッドに右手を置いてよろよろと立ち上がる。立ち上がった……。
立っている。
呆然と見ていると一歩踏み出そうとして、かくんと膝が崩れた、と認識した時には力丸が抱き止めて、頬をすりすりと撫でていた。頭は包帯がぐるぐる巻きだから触れるのが怖くて撫でられなかったのだろう。
ああ、四月に護衛デビューしたら、最速の称号は瞬く間にこいつのものだ。泉門院弥壌が、その称号を受けることを頑なに拒み続けた意味を、武門の奴らが知るのは、あっという間だ。
「殿下」
ひょい、と成人を渡される。
「もう十分だろ、先生?」
「はい」
嬉し泣きの涙を隠しもせず、生松は頷いた。
「といえ」
焦った様子の成人を抱き上げてトイレへ運びながら、力丸にしてやられたことが悔しいやら、成人が動けるようになって嬉しいやら、複雑な気持ちだった。
「ええ。分かりやすい言い方をしましたが、まあ、そういうことなのですよ。人は、本当に気持ちに左右される生き物で、気持ちを司るのが脳、ということですね」
「興味深い話だな」
「睦峯さんは、大化けするかもしれません」
「名義上の兄弟になったが、どうだ?」
「兄ができたと言われても、孤児院育ちの私には、まあ、よく分かりません。子どものように一緒に暮らすということでもないですし。義父上は、喜んでましたよ。近々、宴会をしようと言っておりました」
「はは。酒が飲みたいだけだろう」
成人がスープを食べ終えたらしい。
「全部食えた。氷」
「粥は?」
と力丸が言う間もなく、氷のコップをあおっている。カラカラとだいぶ小さくなった氷が音を立てた。あ、むせた。急ぎすぎて水が変なところに入ったな。氷が口から飛び出して、慌てて手で掴んで口に入れている。
動いてるな……。
にひゃ、と笑う顔が可愛くて、立ち上がって近寄る。
成人は何か話そうとして口を開きかけ、氷が出そうになって慌てて閉じた。
抱き上げようとすると力丸に止められる。お前、俺の本気が見たいのか?威圧すると、耳打ちされた。
「もうすぐ立つ筈だから、手を出さないでください」
「ああ?」
と声を上げて睨むと、
「そういうの皇子として良くないですよ」
と言いながら距離を置かれた。
「どういうことだ?」
「待ってたら分かります」
じっと成人を見る。ご機嫌で、氷を口の中で転がしている。可愛いだけなんだが……。
「といえ」
氷が口の中から無くなったタイミングで、ふとこちらを向いた成人が言った。
にやっと力丸が笑う。
近寄ろうとすると、また腕を掴まれて戻された。
自分はちゃっちゃと近寄って、ベッドの机をずらし、成人の体に絡んでいた布団をよけて一歩引く。
「なる、トイレの場所分からないだろ? 連れて行ってやるよ、おいで」
ああ、そうか。成人はトイレに自分で行きたい。
ふらふらと方向転換する。ベッドの端に足を出して。
落ちる、と手を出しかけたが、力丸に腕を掴まれて留まった。ずるっとベッドから落ちて尻もちをついた。少しは足に力が入っていたのか痛そうな様子はない。といえ、といえ、と言いながら、ベッドに右手を置いてよろよろと立ち上がる。立ち上がった……。
立っている。
呆然と見ていると一歩踏み出そうとして、かくんと膝が崩れた、と認識した時には力丸が抱き止めて、頬をすりすりと撫でていた。頭は包帯がぐるぐる巻きだから触れるのが怖くて撫でられなかったのだろう。
ああ、四月に護衛デビューしたら、最速の称号は瞬く間にこいつのものだ。泉門院弥壌が、その称号を受けることを頑なに拒み続けた意味を、武門の奴らが知るのは、あっという間だ。
「殿下」
ひょい、と成人を渡される。
「もう十分だろ、先生?」
「はい」
嬉し泣きの涙を隠しもせず、生松は頷いた。
「といえ」
焦った様子の成人を抱き上げてトイレへ運びながら、力丸にしてやられたことが悔しいやら、成人が動けるようになって嬉しいやら、複雑な気持ちだった。
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