【完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

14 成人 46

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 久しぶりに、目が覚めても頭の中がぼんやりしていないと思ったのに、何だか気持ち悪い。うにゃうにゃする。何が、と言われても説明できないけど、頭がうにゃうにゃして気持ち悪いのだ。
 目も開かない。顔がむくむくしてて、気持ち悪い。
 喉が渇いて渇いて、痛いくらいだ。何かあついし。
 ひいろぉ。助けて。

成人なるひと? 起きましたか?」

 聞こえた声は生松いくまつで。
 俺はむしょうに腹が立った。なんで、いつも生松いくまつなの。俺は緋色ひいろがいいのに。
 みず、と言ったけど、声が出なくて生松いくまつには分からないみたい。

「気分はどうですか?」

 優しい声。そっと額を触る少しひんやりした手。
 みず。水が飲みたい。

「少し、体温が高いかな。今ね、きっと体が頑張ってるからね」

 いくまつぅ。何で分からないんだよぉ。みず。水ちょうだい。
 悲しくなってきた。
 喉からひー、ひーという音が漏れる。泣いたら、怒られるかな。十六じゅうろくは、よく泣くやつで、怒られて怒られて、薬いっぱい打たれて、壊れちゃったなあ。
 止めようとするけど、喉から出る音は止まらなくて。頭も痛くなってくる。壊れたくないなあ。

成人なるひと、落ち着いて、泣かないで」

 生松いくまつが優しく額を撫でるほど、違う、という気持ちが大きくなって、止まれない。
 いつの間にか生松いくまつは居なくて、一人でひー、ひー言ってた。

「触れてもいいのか?」
「ええ、動かないようにお願いします」

 不意に聞こえた緋色ひいろの声。緋色だ。緋色だ!
 頬に温かい手が乗る。

成人なるひと

 ひいろ。嬉しい。ひいろ。
 唇にキスが落とされて、必死で吸い付く。緋色ひいろ、水ちょうだい。ああ、気持ちいい。緋色、大好き。

緋色ひいろ殿下、興奮させないでください」

 生松いくまつの声に唇が離れた。やだ。いやだ。また泣きそう。

「喉が渇いているんじゃないか。水は?」

 さすが、緋色ひいろ。俺のこと、分かってる。

「駄目です」

 生松いくまつ、水飲まないと俺、死ぬよ?もう、いや!そんなことを思っていると、また頭が痛くなってきた。

成人なるひと、頑張ったなあ」

 緋色ひいろが頬を撫でてくれると、少し治まる。
 もう一回、緋色ひいろがキスしてくれた。口のなかに冷たい塊が入ってくる。冷たくて硬くてべろべろ舐めたら喉に水が入っていった。
 あめ?
 美味しい、嬉しい。

「飴じゃない。氷って言うんだ」

 こおり。今、俺の中で食べ物ナンバーワンはお前だ!
 そんなことを思いながら、いつの間にか寝ていた。
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