【完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

12 赤璃 4

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 緋色ひいろの方を向くと、渋面を隠しもせずに深くため息をついた。
 ソファに座る。私と朱実あけみが並んで座り、対面に緋色ひいろが座った。

さいは、本当の名前を蒼宗そうそうと言うらしい。記憶は消されている。本人も覚えてはいない」
「そうそう?」

 緋色ひいろが紙に蒼宗そうそうと書いた。私と朱実あけみは顔を見合わせる。
 蒼の字は、帝国の王族の第一子の証。やはり、あの威厳は間違いではなかった。

蒼宗そうそう殿下の意見としては、朱実あけみにだけは報告しろと言っていた。だが、俺がしなかった」
「記憶はない?」
「まったく、無い」
「では、どうやって」
「頭の機械を壊した時に、無意識に呟いた言葉から調べた。本人は呟いたことも覚えていない」
「少し遅かったけれど、自分で報告してくれたことは評価する。ありがとう」
「いや」

 と言いながらこちらを向くので、私は席を外した。

「顔を洗ってくるわ」

 地味で平凡に見えるように施した化粧を落とすと、父親似の目立つ美貌が現れる。化粧水と保湿だけをして戻ると緋色ひいろはもういなかった。

「あら、もうお戻り?」
「おかえり、私の姫」

 朱実あけみは、私の言葉を無視して抱きしめてくる。気持ちよく身を寄せながら、そういえば、と忘れずに言っておく。

「三条の姫に会いました。赤虎せきとらさまとの婚約を解消して、緋色ひいろ殿下との婚約を申し入れたとか言っておりましたわ」
「へえ。緋色ひいろは?」

 面白そうな顔で呟くのね。

「すでに内縁の妻がいると伝えておりました」
緋色ひいろたちは今、大変だからね。私たちで処理しようか」

 私は少し笑う。本当に、緋色ひいろに甘いこと。なに? と聞いてくる口を柔らかくキスでふさいだ。嬉しそうに笑う朱実あけみが愛しい。

「好きよ」

 力丸りきまる成人なるひとにキスをしたくなったら、教えてね。その感情の名前を教えてあげる。
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