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第三章 幸せの行方
10 赤璃 2
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手術施設のある建物からは朱実のいる王城の方が近いのに、緋色は先に離宮へ帰り、なるの部屋に来た。扉前の護衛が礼を取るのを手で制し、そっと扉を開ける。
力丸の話し声と、たまになるの相づちが聞こえる。力丸はソファに座って、膝の上でなるを横抱きにして二人で、にこにこと喋っているようだ。机にはジュースのコップが二つ。
そのまま緋色は扉を閉めた。
「いいの?あれ。」
「ああ。」
「なかなかの好敵手よ。」
くくっと緋色は笑った。
「あいつらは、親友だ。」
「なるは、私たちといる時にジュースを飲みたいなんて言わないわ。」
「力丸は、一生気付かない。」
悪い顔で笑っている。
「絶対だ。」
「そうね。」
友情と恋情の境目なんて簡単なこと。けれど、誰も教えなければその友情は永遠だろう。それもまた、幸せだ。
王城の廊下で、護衛を一人連れた三条初花に出会った。
「ごきげんよう。緋色殿下。」
嬉しそうに挨拶をしている。格下相手に先に挨拶したくないのか、本当に目に入っていないのか、私の事は全く無視かと思ったが、わざと使用人のように見える偽装をしていることを思い出した。
「こんにちは、初花さま。」
「あら、七条さんでしたの?使用人かと思っていましたわ。」
じろじろと私を眺め回した後で、三条初花が答える。緋色が黙りなので様子を伺うと、これは誰だ、という顔をしている。
おいおい。
「殿下、彼女は赤虎さまの婚約者です。」
小さい声で耳打ちすると、ようやく、ああという顔になった。確かにこの子は、流行りの化粧をすることが多いので覚えにくいかもしれないが、兄の婚約者の顔を覚えていないとは。
「今、赤虎さまとの婚約を解消して参りましたの。」
聞いてもいないのに、そっと目を伏せて語りだした。面白い情報が聞けそうだ。
緋色が首を傾げているので、静かに聞くように、と人差し指を唇に当てて合図を送る。
「お父様が、研究所を爆破するような乱暴者のところへ娘をやることなどできぬとお怒りで。わたくしも、それを聞いて恐ろしくなってしまって。」
憂いを含んで語っていた顔を、つと上げた。
爆破したのは緋色ですけど、と心の中でだけ突っ込んでおく。
「赤虎さまに申し入れましたら、円満に解消して頂けて、ほっとしているところですの。」
三条の家の政略による婚約だったから、大して揉めることもあるまい。野心家の三条は、皇族でなくなった赤虎になど用は無いだろう。それに、この子は。
「それでね、お父様ったら、婚約を解消すると同時に緋色殿下に婚約を申し入れて来なさいっておっしゃって。」
はにかむように笑う顔は、幸せそうだ。たしかこの子は、子どもの頃から緋色が好きだった。家の命令で赤虎の婚約者にされていたが、ようやく気持ちを伝えることができた、といったところか。
頬を赤く染めて、まるで告白の場面だ。
力丸の話し声と、たまになるの相づちが聞こえる。力丸はソファに座って、膝の上でなるを横抱きにして二人で、にこにこと喋っているようだ。机にはジュースのコップが二つ。
そのまま緋色は扉を閉めた。
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「ああ。」
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くくっと緋色は笑った。
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悪い顔で笑っている。
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「そうね。」
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「ごきげんよう。緋色殿下。」
嬉しそうに挨拶をしている。格下相手に先に挨拶したくないのか、本当に目に入っていないのか、私の事は全く無視かと思ったが、わざと使用人のように見える偽装をしていることを思い出した。
「こんにちは、初花さま。」
「あら、七条さんでしたの?使用人かと思っていましたわ。」
じろじろと私を眺め回した後で、三条初花が答える。緋色が黙りなので様子を伺うと、これは誰だ、という顔をしている。
おいおい。
「殿下、彼女は赤虎さまの婚約者です。」
小さい声で耳打ちすると、ようやく、ああという顔になった。確かにこの子は、流行りの化粧をすることが多いので覚えにくいかもしれないが、兄の婚約者の顔を覚えていないとは。
「今、赤虎さまとの婚約を解消して参りましたの。」
聞いてもいないのに、そっと目を伏せて語りだした。面白い情報が聞けそうだ。
緋色が首を傾げているので、静かに聞くように、と人差し指を唇に当てて合図を送る。
「お父様が、研究所を爆破するような乱暴者のところへ娘をやることなどできぬとお怒りで。わたくしも、それを聞いて恐ろしくなってしまって。」
憂いを含んで語っていた顔を、つと上げた。
爆破したのは緋色ですけど、と心の中でだけ突っ込んでおく。
「赤虎さまに申し入れましたら、円満に解消して頂けて、ほっとしているところですの。」
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「それでね、お父様ったら、婚約を解消すると同時に緋色殿下に婚約を申し入れて来なさいっておっしゃって。」
はにかむように笑う顔は、幸せそうだ。たしかこの子は、子どもの頃から緋色が好きだった。家の命令で赤虎の婚約者にされていたが、ようやく気持ちを伝えることができた、といったところか。
頬を赤く染めて、まるで告白の場面だ。
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