【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
95 / 1,321
第二章 人として生きる

77 成人38

しおりを挟む
「姫。どうぞ顔をお上げください」

 三雲みくもの落ち着いた声が響く。

「ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう」 
 
 頭を上げた乙羽おとわがにっこり笑った。今日も美人!

「結婚おめでとう」

 緋椀ひまりもぼそっと言う。

「ありがとう。緋椀ひまりくんのいないときにごめんなさいね。でも、内々で式を済ませたから、親戚もほとんど呼んではいないのよ。あ、でも、緋見呼ひみこさまはいらっしゃったけど」
「あー、母上が勝手に押し掛けたんだろ?」

 くすくすと乙羽が笑った。

「殿下、出ますよ」

 常陸丸ひたちまるの声で装甲車に乗り込む。俺が荷台の方を向いていると、どうした? と隣に座った緋色ひいろが聞いてきた。

「乗るところ、あっち」

 俺の乗るところは荷台。

「あれは、荷物置き場だ。人の乗るところじゃないんだ」

 ぽかんと見上げていると、緋色ひいろに頭を撫でられた。

成人なるひとは人になったから、こっちに乗る」

 そっか。武器じゃなくなったか。お尻痛くなさそうで助かります。
 座席の感触を楽しんでいると、隣に座っていた乙羽おとわと向かいの席の三雲みくもが眉根を寄せて、嫌そうに首を横に振るのが見えた。

「護衛を頼む」
「お任せください」

 緋色ひいろの言葉に三雲みくもが頷いている。
 出発しようとしたら広末ひろすえ斑鹿乃むらかのが二人で走ってきた。

「殿下! 途中まででいいので乗せてください!」

 斑鹿乃むらかのが繋いだ手を恥ずかしそうにほどこうとして、広末ひろすえがもっとぎゅっと握るのが見える。

泉門院せんもんいんの屋敷に行きたいんです。師匠に仮免許を貰ってきます」

 乙羽おとわの顔が、ぱあ、と笑顔になった。

広末ひろすえ?」
「はい。姫様。け、結婚しました」

 きゃー、と乙羽が嬉しそうな声を上げる。

斑鹿乃むらかの、おめでとう。え? え? したの? もう、結婚したの? いつ、いつ求婚プロポーズしたの? 調理士免許取れたらって、ずっと待たせてたのに」
「あの、ついさっきです。その……」
「いいから乗れ」

 緋色ひいろが話を止めて促す。斑鹿乃むらかのはずっと真っ赤な顔で俯いていた。

「途中でいいんだな」
「はい。王城を出たら乗合タクシーがありますので」
「ついでに指輪も買ってこい」 
「は、いえ、その、それはまた」

 広末ひろすえも真っ赤になる。

「またっていつ? 今日じゃないと駄目よ。広末ひろすえは料理のことを考え出したらすぐに忘れちゃうんだから。ああ私、そちらに付いていきたいくらいだわ」

 車の中に乙羽の明るい声が響く。俺は、この声がとっても好き。皆もにこにこしてる。

「そちらに行ってもいいぞ」

 緋色ひいろの言葉に乙羽は、はっとした。

「……実家が消える日に友達の結婚の方が大事って、私は人でなしね」

 人でなし? そんなわけ無い。

「ここは人が乗るところ」

 
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...