【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
92 / 1,321
第二章 人として生きる

74 緋色 38

しおりを挟む
「起きたか?」

 昼食後に朱実あけみに呼ばれたので成人なるひとを置いていってしまった。今日は特に離れたくない日だった筈だから心配だ。抱いて行きたかったが生松いくまつに止められた。
 ベッドに小さな布団の盛り上がりが見える。

「一度起きたのですが、殿下がいないと怒ってしまって」
「食事は?」

 生松いくまつは首を横に振った。

「ミックスジュースも飲めるものではなかったようです」
「だから、抱いて行くと言ったのに」
「体が休まりませんからね」
「今は怪我も熱も無いだろう?」

 生松いくまつはまた、首を横に振った。

成人なるひとのこの体で、何故あれだけの動きができるのか、力が出るのかを考えていました。私の予想は、忍部しのぶべ博士の研究と一致します。こんな体の使い方をしていては長くは持ちません」
「分かりやすく言え」
「火事場の馬鹿力です。人が窮地に陥った時に、一生に一度使うかどうかの、自分の限界を遥かに超える力を出すあれを、常に使えるように脳に誤作動を起こさせているのです。そんなことをしたら、体も悲鳴を上げてストッパーがかかるのですが、体の方のストッパーも薬やらで外してしまっている。戦闘人形ドールが子どもなのは、小さいうちほど脳の誤作動を誘導しやすく、体のつくりも変えやすいからでしょう。力を発揮できる間に戦争で役立てばよいので、長持ちするようにはできていない。成人なるひとの体は劣化が始まっています」
「……なん、だと」
「ベッドに縛りつけたい訳じゃない。楽しく過ごして欲しい。無茶な動きをさせずに、栄養をしっかり取らせて、一日でも長く生きられるように……します、から」
 
 声は段々と震えて小さくなっていく。ぐ、と唾を飲み込むと決意したように、生松いくまつはもう一度口を開いた。

「私の、言うことを聞いてください」

 俺は半ば呆然としていた。一日でも、だと? 単位が短すぎないか。一年でも、の間違いじゃないのか。

「戦闘に参加するのは絶対に禁止です。力丸りきまるさまと体を使って遊ぶのも、体調の良い時、週に一度が限度」
「……必ず、守る」

 成人なるひとが頭まで被っている布団をそっとめくる。右目の下に涙の痕が見えた。

「……だが、連れていく」
「殿下」
「絶対に戦闘には参加させない。約束する」
「……はい」
力丸りきまるが学校から帰り次第、出る。それまで点滴でも打っておいてくれ」
「分かりました」

 成人なるひとの頭をそっと撫でて、二条家へ殴り込む準備のために、一旦部屋を出た。
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...