【完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

59 緋色 30

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 今、あきらかにおかしな動きで成人なるひとの体が跳ねた。

「離せ! 常陸丸ひたちまる
「駄目です、殿下」

 くそ。本気の常陸丸ひたちまるを振りほどける訳がない。せめて。

「もう少し近くに」
「離れていてほしい、と博士が言ってる」
「嫌だ。いやだ、常陸丸ひたちまる

 子どもの頃にも、こんなに駄々を捏ねた覚えはない。だが、理性はとうに何処かへ行ってしまっていた。

! お前が抱いていても成人なるひとは良くならない」

 ああ。くそっ。目から汗が。
 俺は無力だ。

「信じろ。忍部しのぶべは、手術も成功させただろう?」

 全く動かなくなってしまった成人なるひとの左こめかみ辺りに機械を当てている忍部しのぶべを見る。目に汗をかいてる場合じゃない。きちんと見なくては。

「ここか。睦峯むつみね、とりあえず潰す。体を押さえろ。九条くじょう先生、脈を見ていてください」
 
 潰す? 潰すって何を?
 体に力を入れると、常陸丸ひたちまるに痛いくらいに押さえられる。
 くそっ。
 バチッと成人なるひとのこめかみに電撃が走った。忍部しのぶべがまた違う機械で何かしたらしい。
 押さえていても体が跳ねるのが見えた。

「おいっ!」

 思わず声を出す。
 忍部しのぶべたちは全く気にせず、冷静にもう一度、検査機器のようなものを成人なるひとの痣ができたこめかみに当てた。

「よしっ。届いていない」
「脈は正常です」
「脳波も落ち着きました」
「よし、よし。上手くいった、上手くいったぞ」
「博士……」

 睦峯むつみねが声を詰まらせている。もう大丈夫なのか。どうなったんだ?

「……まだだ」

 忍部しのぶべは機械を見つめて呟いた。

「これは……」

 すっすっと機械を振ると、さいを見つめて少しずつ近付く。

常陸丸ひたちまるさま。こちらの方を押さえていてもらってもよろしいでしょうか? 緋色ひいろさまはもう、大丈夫です。」
さいを?」
「俺……ですか? あの、俺が何か……」

 常陸丸ひたちまるが俺を離してさいに近付く。さいは戸惑ったまま、大人しく常陸丸ひたちまるに拘束された。

「この方は?」
「帝国の文官だった。調停役でこちらにいた。戦争に反対していて、ピアスも一番に外した。その後からずっと緋色ひいろさまの手伝いをしてくれている」

 成人なるひとを腕に抱いて常陸丸ひたちまるの答えるのを聞いていた。

「目を閉じていてください」

 バチッ、とさいのこめかみで電気が弾けた。
 まさか……。
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