【完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

56 成人 31

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 あつい……。
 ぼんやりと目を覚まして、緋色ひいろの体から離れようとすると、更にぎゅっと抱き込まれた。
 力丸りきまるといっぱい遊んで、ご飯食べて、その後どうしたっけ?
 いつベッドで寝たんだろ……。

「あつい……」

 声は掠れててあまり出なかったけれど、緋色ひいろには聞こえたみたいだ。
 眠たそうに俺を引っ張り上げて、おでこをくっ付けた。ああ、と声がする。

「熱が出てるな……」

 ぼんやりと呟いて、俺の体をそっと離す。

「待ってろ……」

 頭を振りながらベッドから下りようとするので、きゅっと服を掴む。

「だいじょ……」

 全部言う前に、ばちんとおでこを弾かれる。

「いた、い……」
「大丈夫なら」

 そう言って、また俺を抱き込んで布団を被った。
 あつい……。
 くるし…い…。
 はっ、はっ、と呼吸が上手くできなくなってくる。
 水、飲みたいなあ。
 もうろうとしていると、ちっと舌打ちが聞こえた。
 緋色ひいろが離れていく。それはそれで、寂しいんだよ……。
 唇と唇が触れあって水が流れ込んできた。
 おいしい。
 ほ、と意識が闇に溶けた。

 また意識が浮上したら、乙羽おとわがベッド横で椅子に座り、本を読んでいるのが見えた。
 今日もきれいね。
 ここは、何て居心地が良くて、幸せな場所なんだろう。
 あつくて、ぼんやりとしながら右目から涙が溢れてきた。
 気持ちのいい布団の上で、こんなに幸せな気持ちで死ねるなら、俺はそれでいい。本当に、それでいいんだ……。
 
「なる……?」

 乙羽おとわの声が遠く聞こえて、すべては幸せな夢だったと思った。
 
 
 土の上だ。
 やっぱり。
 何て幸せな夢だったことだろう。
 どこかで銃声がする。真っ暗な夜で、俺は少し寝ていたらしい。頭を軽く振ると、指令が聞こえた気がした。やけに声は遠い。何を壊すの? 誰を殺すの?
 感度が悪い。
 ふ、と目を落とすと左腕が無かった。視界も狭い気がする。
 そうか、壊れたんだっけ? 何時いつ
 殺……せ…。
 ノイズ混じりの音は嫌い。
 緋色ひいろ殿下の顔が頭に広がる。本物は、もっとカッコいいのに。
 殺せ。
 緋色ひいろ殿下を? 俺が?
 何故かそれはできない気がした。でも、そう考えるとぎりぎりと頭が痛んだ。 
 成人なるひと、と言う声だか指令だか分からない音もする。それを聞くと頭の痛みが少しおさまった。成人なるひとって何だっけ?
 うるさいくらいにその音が聞こえて、指令をかき消した。
 ありがとう、これで眠れる……。
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