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第二章 人として生きる
44 成人 26
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力丸の母上は言う。
「あんたたちは子どもだけど、大人顔負けの力を持っている。それは凄いことだけれども、ちゃんと自覚して使わなくちゃいけない。人を、簡単に殺せてしまうんだよ、恐ろしいことだ。九条さまだからいい、常陸丸だから大丈夫、というものでもないんだ」
「はい」
力丸は大人しく頷く。
俺は首を傾げる。恐ろしいってどういうことだ? 人は簡単に殺せる。当たり前だよ。そのための力なんだから。
母上は、頷かない俺をじっと見た。
「人を殺してはいけない、傷付けてはいけない」
「当たり前だろ」
え? そうなのか。では、何のために鍛えてるんだ? 困って、母上と力丸の顔を見比べる。
「成人、お前……」
ベッドで横向きに寝転がっている力丸が俺の顔を見て、驚いたように何かを言いかけた。
「力は、大切な人を守るために使うんだ。攻撃するためじゃない」
母上はベッド脇に置いた椅子に座って、俺に手招きしながら言う。近寄った俺の肘までしかない左腕を擦りながら、膝の上に横向けに抱いた。
守るため……?
「なるちゃんは、学校は行ってないのかい?」
目を合わせて、優しく話しかけてくる。首を横に振ってると力丸が代わりに答えてくれる。
「戦場にいたから、行ったことないんだって」
「そうか。こんな小さいのに、戦場にいたのか。どのくらいいたんだい? その前も学校は行ってないの?」
「学校、知らない。三年いた」
「……なるちゃん、年は幾つなんだい?」
それ、よく聞かれるけど困っちゃう。もう適当に決めておこうかな。
「たぶん、知らないんだと思うよ」
力丸の声。
「ご両親は?」
「そういうのも分からないみたいだ、母上。たぶん成人は、母上ってのも名前だと思ってる。兄上とか姉上とかって言葉も通じなかった」
「……」
教えてくれたら覚えるよ。母上は名前じゃないの? 呼び名? じいじみたいな? 兄上は常陸丸と朱実殿下の呼び名でしょ。姉上は乙羽でしょ。絵本にも、おじいさんとおばあさんがいっぱい出てきたし。
「私の名前は泉門院青葉だよ」
青葉さんって呼べばいいのかな? 母上でいいのかな?
「成人です」
「名前は、誰がつけてくれたの?」
「緋色」
「それまでの名前は、あるかい?」
あります、あります。
「十三」
答えたら、青葉さんは俺を抱え込んだ。いい匂い。ふかふかだー。乙羽より気持ち良い。
「参ったね、こりゃ」
喜んでくっつくと、何故か涙声で青葉さんは呟いた。
「なるちゃんは人を殺したことがあるんだね?」
「あんたたちは子どもだけど、大人顔負けの力を持っている。それは凄いことだけれども、ちゃんと自覚して使わなくちゃいけない。人を、簡単に殺せてしまうんだよ、恐ろしいことだ。九条さまだからいい、常陸丸だから大丈夫、というものでもないんだ」
「はい」
力丸は大人しく頷く。
俺は首を傾げる。恐ろしいってどういうことだ? 人は簡単に殺せる。当たり前だよ。そのための力なんだから。
母上は、頷かない俺をじっと見た。
「人を殺してはいけない、傷付けてはいけない」
「当たり前だろ」
え? そうなのか。では、何のために鍛えてるんだ? 困って、母上と力丸の顔を見比べる。
「成人、お前……」
ベッドで横向きに寝転がっている力丸が俺の顔を見て、驚いたように何かを言いかけた。
「力は、大切な人を守るために使うんだ。攻撃するためじゃない」
母上はベッド脇に置いた椅子に座って、俺に手招きしながら言う。近寄った俺の肘までしかない左腕を擦りながら、膝の上に横向けに抱いた。
守るため……?
「なるちゃんは、学校は行ってないのかい?」
目を合わせて、優しく話しかけてくる。首を横に振ってると力丸が代わりに答えてくれる。
「戦場にいたから、行ったことないんだって」
「そうか。こんな小さいのに、戦場にいたのか。どのくらいいたんだい? その前も学校は行ってないの?」
「学校、知らない。三年いた」
「……なるちゃん、年は幾つなんだい?」
それ、よく聞かれるけど困っちゃう。もう適当に決めておこうかな。
「たぶん、知らないんだと思うよ」
力丸の声。
「ご両親は?」
「そういうのも分からないみたいだ、母上。たぶん成人は、母上ってのも名前だと思ってる。兄上とか姉上とかって言葉も通じなかった」
「……」
教えてくれたら覚えるよ。母上は名前じゃないの? 呼び名? じいじみたいな? 兄上は常陸丸と朱実殿下の呼び名でしょ。姉上は乙羽でしょ。絵本にも、おじいさんとおばあさんがいっぱい出てきたし。
「私の名前は泉門院青葉だよ」
青葉さんって呼べばいいのかな? 母上でいいのかな?
「成人です」
「名前は、誰がつけてくれたの?」
「緋色」
「それまでの名前は、あるかい?」
あります、あります。
「十三」
答えたら、青葉さんは俺を抱え込んだ。いい匂い。ふかふかだー。乙羽より気持ち良い。
「参ったね、こりゃ」
喜んでくっつくと、何故か涙声で青葉さんは呟いた。
「なるちゃんは人を殺したことがあるんだね?」
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