【完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

35 成人 22

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 あね、というのは知らない言葉だけれど、二条美羽みはねは人の名前だろう。その人が死んで、乙羽おとわは悲しい、のか? 何故、悲しいのだろう。人は皆、いつか死ぬ。仕方ないことだ。
 人が死んで悲しいのは、どういう時だっけ?

「二条美羽みはねは、好きな人?」
「好きじゃない」

 すぐに答えは返ってきた。

「悲しいの?」
「違う」
「なんで泣いてる?」

 乙羽おとわは少し体を起こして俺から離れた。肩に手は置かれたままだ。

「なんで……。私が死んだら美羽は助かったかもしれない……から? ……私が命を惜しんだから、美羽は死んだ。人殺しだから」

 好きな人でないなら、自分の命を差し出す必要なんて無いんじゃない?
 結婚の誓いは、簡単に死んでは駄目、生きることを諦めたら駄目、だろう? 一番好きな常陸丸ひたちまるとの誓いの方が大事。
 俺は乙羽おとわの左手を肩から外した。結婚指輪を見せる。

「長く二人で生きる」

 ぱちぱちと乙羽が瞬きする。

常陸丸ひたちまると約束してる。死んだら駄目」

 じっと、乙羽は自分と俺の結婚指輪を見た。

「なるは、緋色ひいろさまと約束したの?」

 うんうんと頷く。

「長く二人で生きるって? 死んだら駄目って?」
「生きることを諦めても駄目。結婚の誓い」

 目を丸くした乙羽は、少し考えてから、ふはっと笑った。

「私は、誓いを守った?」

 うん。

「家族は、私を人殺しと言うのよ。姉がお前のせいで死んだって」
「乙羽のせいで死んだの?」
「病気」
「……?」
「私が、治療に使う体の何かを差し出せば、治ったかもしれない。二度、あげた。三度目は私が死ぬと言われた」
「じゃあ無理」
「……そうか」
「うん」

 そうかぁ、と呟く乙羽を見る。
 死んだら駄目なのだから、あげられる訳がない。何を言ってるんだ、そのかぞくとやらは。

「かぞくって何?」
 
 潤んでいるけれど、すっかり涙の止まった目で乙羽はこちらを見た。

「血の繋がりがある人」
「血の繋がりが分からないとかぞくはいない?」

 じゃあ、俺はかぞくはいないのか。そもそも血の繋がりって?
 乙羽は首を振った。

「夫婦も家族。血の繋がりが無くても、一緒に暮らしてる好きな人は家族」
「ふうふ?」
「結婚した二人」
「俺と緋色ひいろは家族?」
「そう」
 
 一緒に暮らしてる好きな人。

乙羽おとわも家族? じいじも?」
「そう、そうだね!」

 乙羽は、手をぽんと叩いた。

常陸丸ひたちまる生松いくまつ先生も吉野よしの斑鹿乃むらかの広末ひろすえさいさんも」

 俺たちは顔を見合わせて笑った。

「家族」

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