【完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

33 緋色 19

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「寝ちゃった。意外と話を聞いてるんだね」
「意外とってなんだ。成人なるひとは全部聞いてるよ」

 常陸丸ひたちまるが、ベッドから持ってきた薄めの毛布を、俺の腹の上で寝た成人なるひとの背中にかける。

「ベッドに置かないの? そのまま寝るの? 辛くない?」
「離すとぐずるから、しばらくこのまま寝かせてやるんだよ。……それで、なんだったっけ?」
赤虎せきとらは、緋色ひいろの嫁をさらって研究所に渡したってことで合ってる? で、怪我もさせた、と」
「ああ」
東院とういん家の護衛はそれに加担してたと」
「そうだな」
「……赤虎せきとらの怪我はお前か?」
「手の銃創は俺。足の骨は利胤としたね。じいは成人なるひとの護衛だからな。護衛対象に身の危険があれば、相手が皇族でも攻撃しても仕方ないよな」
「ふむ、緋色ひいろの嫁なら皇族に準ずる。いけるな。東院とういん家は話にならん。皇家筆頭護衛の任を解く」
朱実あけみ殿下!」

 朱実あけみの座るソファの後ろに立っていた東院とういん由狩ゆかりが悲鳴のような声を上げた。
 朱実あけみの手が動く。

「チャンスをやろう、由狩ゆかり。私を護れ」

 俺がポケットからナイフを出して投げる間に、ぱちりと目を開けた成人なるひとが物凄い力で俺をソファに引き倒し、上に被さった。ソファとローテーブルを一足飛びした常陸丸ひたちまるは、朱実あけみが俺に向けて構えた銃を叩き落としざま、動こうとしたばかりの由狩ゆかりに飛び蹴りを食らわし、朱実あけみの両腕を押さえて止まる。
 俺のナイフがかすったのだろう。朱実あけみの頬にうっすらと血が滲んだ。しまった、咄嗟に軌道を逸らすのが上手くいかなかったか。

「わ、朱実あけみ殿下、血が!」

 常陸丸ひたちまるが慌てている。
 う、う……と俺の上で成人なるひとが呻く。真っ青な顔で口を押さえた。慌てて抱き上げ洗面所へ連れていくと、さっき食べたものが全部出た……。
 せっかく栄養のあるものを食べたのに。
 ナイフ、当ててやれば良かった、と朱実あけみを睨むと両手を上げて頭を下げてきた。

「ごめん。まさかお嫁ちゃんが起きるとは思わなくて。本当に悪かった」

 常陸丸ひたちまるが呼んだ生松いくまつが白衣を羽織りながら走ってくる。すぐに朱実あけみの元へ行こうとするのを朱実あけみが制した。

成人なるひとから診よ」

 足の傷から血が滲んでいる。荒い息を吐いて、くったりと俺にもたれ掛かっていた。右腕一本で俺をソファに引き倒したのだ。どれだけの負荷がかかったことか。
 ベッドに寝かせようとすると、や、いや、と首を振る。

緋色ひいろさま、そのままで大丈夫です。」

 生松いくまつは痛み止めを一本打って足の包帯を巻き直した。
 朱実あけみの頬のかすり傷にも丁寧に薬を塗りガーゼを当てる。

由狩ゆかり、私を護れと言った筈だが?」

 常陸丸ひたちまるの飛び蹴りで吹っ飛んでいた由狩ゆかりが胸を押さえて何とか起き上がった。診ようとする生松いくまつの手を振り払う。

「……格上を三人相手でした」
「一人は怪我をした寝ている子ども、もう一人はその子どもを抱えていて動けない。そして、私は先に仕掛けた」

 東院とういん由狩ゆかりが唇を噛んで俯く。

「実力で、また帰ってくるのを楽しみにしているよ」

 頬にガーゼを貼った朱実あけみが爽やかに笑った。
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