【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
46 / 1,321
第二章 人として生きる

28 成人 17

しおりを挟む
 色んな手が伸びてきて、注射しようとする。大きなぶっとい針の注射を一斉に刺す。
 痛い、熱い。やめて。

成人なるひと成人なるひと

 声がしてふっと目を開けると、緋色ひいろが見えた。緋色ひいろが、ほー、と深い息を吐く。

「起こしてすまん。うなされていた」

 自分のベッドの上? 緋色ひいろもベッドの上にいる。汗を拭いてくれた。

「水、飲むか」

 うん。
 唇と唇が触れ合うと、気持ちいい。流し込まれる水を飲んで、手を伸ばす。

「くっつきたいか。待ってろ」

 ベッドで一緒に横になり、ぎゅう、と抱いてくれた。

「……成人なるひと。偉かったな」

 囁くような緋色ひいろの声が聞こえる。

「誓いを、ちゃんと覚えていたんだろ。死なないように、頑張ったな……」

 うん。
 寄り添う体が温かくて幸せだった。
 
 俺は、ものすごく弱くなったんだろうか。足が痛くて目を覚ましたのか、目を覚ましたら足が痛かったのか。とにかく痛くて、声が出てしまう。

「う……うぅ」

 口に右手を突っ込んでみる。心配をかけるから、静かにベッドにいたいのに。
 戦場では、傷の手当てなんてしなくても、とりあえず血を流しすぎないように止血して、我慢すれば何とかなってた筈なんだけど。止血して、地面に転がっていた。少しでもやわらかい土の上を探して。人に見つからない場所を探して。
 あの時も、声は出てたりしたのだろうか。気付いてなかっただけで。
 贅沢なベッドの上で、手当てしてもらって唸ってるなんて、情けない。
 目をつぶって必死に声を殺していると、ぐいと右手が口から出された。

「噛むな。どうした。辛いのか」

 緋色ひいろに気付かれてしまった。くっついているから、体が震えてしまっているのも分かるのだろう。情けない。寝てたのを起こしてしまったのかも。

「う……う……」

 大丈夫、と言いたいのに。せめて、首を横に振ってみる。
 こんなに弱かったら、すぐに死んでしまう。

生松いくまつを呼んでくる。辛い時は、どう辛いのか言え。声も出せ。伝えてくれたら助けるからな」

 優しい声。最初から優しい声だった。もう俺は充分幸せで……。

成人なるひと、忘れるな。死んだら駄目だぞ」

 ああ、とんでもない誓いを立ててしまったのかも。
 
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

処理中です...