【完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

15 緋色 12

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 成人なるひとの夕食用の雑炊を乙羽おとわに手渡された。どうしても、緋色ひいろさまが持って行かなければいけない、と言う。
 昼ご飯を食べていないらしい。生松いくまつは、体にはどこも異常は無かったと言っていた。
 部屋に入るとソファで、こてんと寝ている姿が見えた。
 さっきも、さいが様子を見に来たら寝ていたのでは無かったか。雑炊を机に置いて、体をそっと抱き起こす。冷えた体は、相変わらず細い。

「ご飯を食べなきゃ、死んじまうぞ」

 そう言いながら揺すぶると、ゆっくり右目が開いた。きょとん、としている。

「どうした? どこか痛い? 苦しい?」

 俺が分かったらしく、ふわ、と笑った。表情が豊かになったよな、と肉の薄い頬をむにむに揉んでみる。

「元気」

 掠れた、少し高い声が答えた。声も出るようになったな。嬉しそうに抱きついてくる。

「ご飯を食べなきゃ、元気は出ないなあ」

 ソファで膝の上に抱き直し、水の入ったコップを口に当ててやると、しっかり飲んだ。
 雑炊も、スプーンで掬って口へ持っていく。喜んで食べる。

「食べられるな。良かった。後は、自分で食べるか?」

 うんうんと頷くのでスプーンを渡したが、食べる様子はまるで無い。膝の上でこちらをふりかえっては、嬉しそうに、にこにこしている。

「食べさせて欲しいのか?」

 と言うと、首を傾げている。いや、分からないのはこちらなのだが。スプーンを取り上げて口へ運ぶと、また食べた。 
 甘えてるのか。
 
緋色ひいろさま、まだこちらにいらっしゃいますか?」

 ノックの音がして、常陸丸ひたちまるの声がした。応、と答えると、扉が開く。
 常陸丸ひたちまるは、膝の上でご飯を食べている成人なるひとをまじまじと見つめ、ため息をついた。

「なに甘えてんの」
「こうしたら、食べる。スプーンを渡しても食べないんだ」
成人なるひと緋色ひいろさまは忙しいんだからな。お手を煩わせるんじゃない」

 うんうんと頷くのが見えた。甘えているわけじゃないのか?
 
「とりあえず、後少しだから、食わせてから行く。昼を食べてないらしいんだ。ずっと、ソファでうつらうつらしていたようだ」
「……そういえば、一人で留守番は初めてだったですかね。いつも成人なるひとは、昼間は何してたかな」
「最近は、乙羽おとわと一緒に掃除をしていたようだが」
「前は、そうだなー、側に誰か人がいたら、楽しそうにその動きを眺めていたんだったかな。乙羽おとわのこと、ずっと見てたよな」
「そうか。本を読むわけじゃなし、退屈だったかな。字が読めるなら、絵本でも持ってきてやるか」

 食べさせながら、常陸丸ひたちまると話していると、成人なるひとの右手がぎゅっと服を掴んだ。やっぱり、甘えてるのか。
 食べ終わって水まで飲ませたが、服から手を離そうとしない。

成人なるひと、いい加減にしろ。もうだいぶ、あちらの夕食を待たせているんだ」

 成人なるひと常陸丸ひたちまるの言葉に、俯くようにして頷く。固く握った手をそっと開かせた。

「ごめんな。すぐ、帰ってくるからな。待ってて」

 そう言って、膝の上からソファへ下ろす。頭を撫でて、部屋を出た。
 俯いているので、成人なるひとの顔は見えなかった。
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