33 / 1,321
第二章 人として生きる
15 緋色 12
しおりを挟む
成人の夕食用の雑炊を乙羽に手渡された。どうしても、緋色さまが持って行かなければいけない、と言う。
昼ご飯を食べていないらしい。生松は、体にはどこも異常は無かったと言っていた。
部屋に入るとソファで、こてんと寝ている姿が見えた。
さっきも、斎が様子を見に来たら寝ていたのでは無かったか。雑炊を机に置いて、体をそっと抱き起こす。冷えた体は、相変わらず細い。
「ご飯を食べなきゃ、死んじまうぞ」
そう言いながら揺すぶると、ゆっくり右目が開いた。きょとん、としている。
「どうした? どこか痛い? 苦しい?」
俺が分かったらしく、ふわ、と笑った。表情が豊かになったよな、と肉の薄い頬をむにむに揉んでみる。
「元気」
掠れた、少し高い声が答えた。声も出るようになったな。嬉しそうに抱きついてくる。
「ご飯を食べなきゃ、元気は出ないなあ」
ソファで膝の上に抱き直し、水の入ったコップを口に当ててやると、しっかり飲んだ。
雑炊も、スプーンで掬って口へ持っていく。喜んで食べる。
「食べられるな。良かった。後は、自分で食べるか?」
うんうんと頷くのでスプーンを渡したが、食べる様子はまるで無い。膝の上でこちらをふりかえっては、嬉しそうに、にこにこしている。
「食べさせて欲しいのか?」
と言うと、首を傾げている。いや、分からないのはこちらなのだが。スプーンを取り上げて口へ運ぶと、また食べた。
甘えてるのか。
「緋色さま、まだこちらにいらっしゃいますか?」
ノックの音がして、常陸丸の声がした。応、と答えると、扉が開く。
常陸丸は、膝の上でご飯を食べている成人をまじまじと見つめ、ため息をついた。
「なに甘えてんの」
「こうしたら、食べる。スプーンを渡しても食べないんだ」
「成人。緋色さまは忙しいんだからな。お手を煩わせるんじゃない」
うんうんと頷くのが見えた。甘えているわけじゃないのか?
「とりあえず、後少しだから、食わせてから行く。昼を食べてないらしいんだ。ずっと、ソファでうつらうつらしていたようだ」
「……そういえば、一人で留守番は初めてだったですかね。いつも成人は、昼間は何してたかな」
「最近は、乙羽と一緒に掃除をしていたようだが」
「前は、そうだなー、側に誰か人がいたら、楽しそうにその動きを眺めていたんだったかな。乙羽のこと、ずっと見てたよな」
「そうか。本を読むわけじゃなし、退屈だったかな。字が読めるなら、絵本でも持ってきてやるか」
食べさせながら、常陸丸と話していると、成人の右手がぎゅっと服を掴んだ。やっぱり、甘えてるのか。
食べ終わって水まで飲ませたが、服から手を離そうとしない。
「成人、いい加減にしろ。もうだいぶ、あちらの夕食を待たせているんだ」
成人は常陸丸の言葉に、俯くようにして頷く。固く握った手をそっと開かせた。
「ごめんな。すぐ、帰ってくるからな。待ってて」
そう言って、膝の上からソファへ下ろす。頭を撫でて、部屋を出た。
俯いているので、成人の顔は見えなかった。
昼ご飯を食べていないらしい。生松は、体にはどこも異常は無かったと言っていた。
部屋に入るとソファで、こてんと寝ている姿が見えた。
さっきも、斎が様子を見に来たら寝ていたのでは無かったか。雑炊を机に置いて、体をそっと抱き起こす。冷えた体は、相変わらず細い。
「ご飯を食べなきゃ、死んじまうぞ」
そう言いながら揺すぶると、ゆっくり右目が開いた。きょとん、としている。
「どうした? どこか痛い? 苦しい?」
俺が分かったらしく、ふわ、と笑った。表情が豊かになったよな、と肉の薄い頬をむにむに揉んでみる。
「元気」
掠れた、少し高い声が答えた。声も出るようになったな。嬉しそうに抱きついてくる。
「ご飯を食べなきゃ、元気は出ないなあ」
ソファで膝の上に抱き直し、水の入ったコップを口に当ててやると、しっかり飲んだ。
雑炊も、スプーンで掬って口へ持っていく。喜んで食べる。
「食べられるな。良かった。後は、自分で食べるか?」
うんうんと頷くのでスプーンを渡したが、食べる様子はまるで無い。膝の上でこちらをふりかえっては、嬉しそうに、にこにこしている。
「食べさせて欲しいのか?」
と言うと、首を傾げている。いや、分からないのはこちらなのだが。スプーンを取り上げて口へ運ぶと、また食べた。
甘えてるのか。
「緋色さま、まだこちらにいらっしゃいますか?」
ノックの音がして、常陸丸の声がした。応、と答えると、扉が開く。
常陸丸は、膝の上でご飯を食べている成人をまじまじと見つめ、ため息をついた。
「なに甘えてんの」
「こうしたら、食べる。スプーンを渡しても食べないんだ」
「成人。緋色さまは忙しいんだからな。お手を煩わせるんじゃない」
うんうんと頷くのが見えた。甘えているわけじゃないのか?
「とりあえず、後少しだから、食わせてから行く。昼を食べてないらしいんだ。ずっと、ソファでうつらうつらしていたようだ」
「……そういえば、一人で留守番は初めてだったですかね。いつも成人は、昼間は何してたかな」
「最近は、乙羽と一緒に掃除をしていたようだが」
「前は、そうだなー、側に誰か人がいたら、楽しそうにその動きを眺めていたんだったかな。乙羽のこと、ずっと見てたよな」
「そうか。本を読むわけじゃなし、退屈だったかな。字が読めるなら、絵本でも持ってきてやるか」
食べさせながら、常陸丸と話していると、成人の右手がぎゅっと服を掴んだ。やっぱり、甘えてるのか。
食べ終わって水まで飲ませたが、服から手を離そうとしない。
「成人、いい加減にしろ。もうだいぶ、あちらの夕食を待たせているんだ」
成人は常陸丸の言葉に、俯くようにして頷く。固く握った手をそっと開かせた。
「ごめんな。すぐ、帰ってくるからな。待ってて」
そう言って、膝の上からソファへ下ろす。頭を撫でて、部屋を出た。
俯いているので、成人の顔は見えなかった。
768
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる