【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
25 / 1,321
第二章 人として生きる

7 成人 6

しおりを挟む
「なる、久しぶり!」

 乙羽おとわはそう言って、ベッドに座っていた俺をぎゅって抱いてくれた。俺も、右手を乙羽おとわの背中に伸ばす。
 べりっ。
 早い。

成人なるひとは、子どもなんだからいいでしょ」

 と、乙羽おとわが、自分の背中に抱きついた常陸丸ひたちまるに抗議している。
 何だと?
 俺は、子どもじゃない。

「本人が盛大に否定してるけど?」 

 と、俺を見ながら常陸丸ひたちまるが言った。

「そうなの? なる、いくつ?」

 知らんけど。

「こいつは、乙羽おとわのこと好きなんだから、迂闊なことをするんじゃない」
 
 うん、乙羽おとわのこと、好きだよ。

「なる、私も好きだよー、ありがと」
「はあ、もう」
「旦那様への好きとは全然別でしょ」
「それでも、嫌。成人なるひと乙羽おとわに抱きつくなよ。俺のだからな」

 ちょっとショックだ。誰かとくっつくのは気持ちいいのに。でも、乙羽おとわ常陸丸ひたちまるのだからな。うん。

成人なるひと、座れるようになったのか」

 緋色ひいろの声がした。嬉しくて、手を伸ばす。

「なるの一番好きな人は、常陸丸ひたちまる、分かるでしょ? 私じゃないよ」

 乙羽おとわがくすくす笑った。
 そう、一番好きな人。抱き上げてくれた緋色ひいろに、ぎゅってする。

「結婚する」

 って言ったら、乙羽おとわ常陸丸ひたちまるもびっくりした顔をした。緋色ひいろと一緒に部屋に入ってきた人も、びっくりしてる。
 あれ?

「は? 誰が、誰と?」
緋色ひいろと」
「ば、馬鹿、お前、結婚はな、男同士じゃ……」

 何かを言いかけた常陸丸ひたちまるの口を乙羽おとわの手がふさいだ。左手の薬指にきらきらと指輪が光っている。

「なるは、緋色ひいろさまと結婚したいの?」

 うん。

「そっかあ、結婚って何か教えてもらったの?」

 ふふっ。教えてもらった。幸せで、緋色ひいろにますますしがみつく。

「俺は、もしかして、求婚プロポーズされたのかな」
「そうみたいよ、緋色ひいろさま」
「……かなり、嬉しいな。どうしよう」

 しがみついてるから緋色ひいろの顔が見えないけど、耳が赤い。

「教えたのは、生松いくまつか。呼んでくる」

 乙羽おとわの手を外した常陸丸ひたちまるが部屋を出ていった。

「指輪、きれい」
「皇国では、結婚したら、その証しに付ける人が多いのよ。左手の薬指に」

 そう言って、乙羽おとわが指輪を見せてくれた。
 左手の、薬指?
 ……俺、結婚できない。
 がっくりと緋色ひいろの肩に頭を落とすと、どうした? と背中を叩いてくれた。

「左手ない」

 みっともなく、声が震える。左手も左目も、無くなったって困ってなかった。
 ついさっきまでは。
 なんで、吹っ飛んだのが右手じゃなかったんだろう、と悔しくなって、涙が出てきた。

「泣くな。結婚したって指輪を付けてない人もいるぞ。それに帝国では、右耳のピアスが結婚の証しらしいじゃないか。なあ、さい?」
「え、ええ。そうです」

 さい、と呼ばれた人が返事をする。緋色ひいろは、ソファに座って体を少し離し、俺の顔を覗きこんだ。涙をそっと拭ってくれる。
 
「ぷっ。その言い方じゃ、求婚プロポーズを受けるみたいよ、緋色さま」
「……そうだな。参ったな、成人なるひとはどこまで分かってんのかな? でも、嬉しいな。……参ったな」

 乙羽おとわは、くすくす、くすくす笑いながら、俺の口に飴を入れてくれた。
 ああ、飴!
 このために、俺は生きてた。
 緋色ひいろの膝の上で飴を食べながら、もう、いつ死んでも悔いは無かった。

しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

処理中です...