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第二章 人として生きる
3 緋色 7
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成人が目を覚まさない。左半身がぼろぼろになっていた時でも、三日で目を覚ましたのに。今回は右手の骨折だけのはず。
「指令の影響でしょう。戦闘人形は、私たちより遥かに強い指令が届くと聞いたことがあります。強い力を押さえるには、強い縛りが必要になる。脳にダメージがあるのかもしれない」
斎の言葉に青ざめる。
「この子は、指令者の目の前で指令違反を犯した。相当なペナルティがきているのでは、と」
一日寝ている場合では無かった。だが、成人の呼吸は止まったり乱れたりはしなくなり、ただ、寝ているように見える。
「殿下。起きたなら仕事してくださいよ」
常陸丸が、成人のベッド横に立つ。俺がそこから動かないからだ。
「……俺、頑張ったよな」
「凄かったですよ」
「休む。疲れたから、しばらく休む。斎の聞き取りだけする」
「……まずは、終戦宣言を。その後のことは、陛下にご相談ください」
「あー、くそっ」
本当に、仕事が手につかない。と、言っているのに、周りがごちゃごちゃと五月蝿いから、じゃあ皇子やめる、と言ったら、案外すんなり事が運んで驚いた。こんなに簡単だったなら、もっと早くにやめれば良かった。
いや、そうしてたら、成人を拾えなかったか。
褒美に屋敷を一つもらって、暮らしていくに困らないように、金もたっぷりともらう。皇子の身分を捨てたとて、この戦争の『英雄』である事実は変わらない。一人殺せば殺人者、百万人殺せば英雄になる、だっけ。
「私が今まで見たことのある戦闘人形は、もっと小さい子どもばかりです」
斎は、執務室で書類の片付けを手伝ってくれながら、ぽつぽつ話す。派遣されてきた文官だけあって、かなり優秀だった。
「この子は、一体何年、戦場を生き延びたのでしょう。……きっと、かなり優秀な……。それが、幸せなことではないにしても」
「戦闘人形は、子どもを改造でもするのか」
「私は、生粋の文官ですので。それに、身分が低くて……。あまり、お役に立てず、申し訳ありません」
「いや、……帝都に家族は? 結婚は?」
斎は、右耳を触りながら首を振った。そこには何もなく、左耳にピアスが光る。
「いえ、結婚はしておりません。父と母が帝都に住んでおりました」
「俺が、憎いか」
「……いえ、感謝しております」
帝都に住んでいたなら、俺の落とした爆弾で死んだだろう。だが、斎に嘘をついている様子はなかった。
「すまなかった」
「殿下。本当に感謝しているのですよ。帝国人は皆、人形ではなくなった。あなたのお陰です」
「指令の影響でしょう。戦闘人形は、私たちより遥かに強い指令が届くと聞いたことがあります。強い力を押さえるには、強い縛りが必要になる。脳にダメージがあるのかもしれない」
斎の言葉に青ざめる。
「この子は、指令者の目の前で指令違反を犯した。相当なペナルティがきているのでは、と」
一日寝ている場合では無かった。だが、成人の呼吸は止まったり乱れたりはしなくなり、ただ、寝ているように見える。
「殿下。起きたなら仕事してくださいよ」
常陸丸が、成人のベッド横に立つ。俺がそこから動かないからだ。
「……俺、頑張ったよな」
「凄かったですよ」
「休む。疲れたから、しばらく休む。斎の聞き取りだけする」
「……まずは、終戦宣言を。その後のことは、陛下にご相談ください」
「あー、くそっ」
本当に、仕事が手につかない。と、言っているのに、周りがごちゃごちゃと五月蝿いから、じゃあ皇子やめる、と言ったら、案外すんなり事が運んで驚いた。こんなに簡単だったなら、もっと早くにやめれば良かった。
いや、そうしてたら、成人を拾えなかったか。
褒美に屋敷を一つもらって、暮らしていくに困らないように、金もたっぷりともらう。皇子の身分を捨てたとて、この戦争の『英雄』である事実は変わらない。一人殺せば殺人者、百万人殺せば英雄になる、だっけ。
「私が今まで見たことのある戦闘人形は、もっと小さい子どもばかりです」
斎は、執務室で書類の片付けを手伝ってくれながら、ぽつぽつ話す。派遣されてきた文官だけあって、かなり優秀だった。
「この子は、一体何年、戦場を生き延びたのでしょう。……きっと、かなり優秀な……。それが、幸せなことではないにしても」
「戦闘人形は、子どもを改造でもするのか」
「私は、生粋の文官ですので。それに、身分が低くて……。あまり、お役に立てず、申し訳ありません」
「いや、……帝都に家族は? 結婚は?」
斎は、右耳を触りながら首を振った。そこには何もなく、左耳にピアスが光る。
「いえ、結婚はしておりません。父と母が帝都に住んでおりました」
「俺が、憎いか」
「……いえ、感謝しております」
帝都に住んでいたなら、俺の落とした爆弾で死んだだろう。だが、斎に嘘をついている様子はなかった。
「すまなかった」
「殿下。本当に感謝しているのですよ。帝国人は皆、人形ではなくなった。あなたのお陰です」
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