78 / 188
七十八
しおりを挟む
男色?
伊良が首を傾げている間に、余四郎が口を開く。
「なんだ、それは」
「女を抱くより男を抱きたい男のことだ。抱かれたい方でも構わないが。くくっ。これはおかしい。嫁をもらうと言うて、自分が嫁だったというおちか。くはっ。くははははは」
とても愉快そうに、正時は笑い声を上げた。
伊良は、余四郎と顔を見合わせて、やはり首を傾げる。元服前の余四郎はもちろん、伊良もまだ閨の教育を受けてはいなかった。つまり、正時の言葉の意味がよく分からない。
「下品な!」
声を上げたのは、行成だ。珍しく怒りをあらわにして腰を浮かせている。
「恐れながら、申し上げます」
膳を横に避けて、ずいっと膝で前へとにじり出てきたのは直井家当主だった。太田家当主の隣へと進み、時行へ向かって深く頭を下げた。
「申せ」
行成の背をなだめるようになでて座らせた時行が言うと、直井は、はっと短く返事をして顔を上げた。
そして。
「正時さま!」
未だ、ひいひいと笑い声を上げている正時に向かって、直井は活を入れんばかりに大きな声を上げた。それから、居住まいを正して落ち着いた声音で続ける。
「お話、よろしいでしょうか。確とお聞きいただきたい。時行さまと我が子、行成が婚約を結んだ時、時行さまも、我が子、行成も齢八つでございました。同じころに婚約を結んだ余四郎さまは、齢五つであったと聞き及びます。余四郎さまの許婚、伊良も我が子と同じ八つ。その年齢の子どもが、男色だのなんだの分かりましょうや?」
ぎろりと睨まれて、正時は、はっと吐きすてる。
「軽口も解せぬか、直井。酒の席だぞ。つまらぬ男だ」
「つまらぬ男で結構。この世には、言うてよい軽口と言うてはならぬ軽口がございます。此度のは、言うてはならぬ軽口でございました」
正時は、直井から目をそらし、また手酌で酒を注いであおる。
「ふん……」
「謝罪を」
「は?」
「謝罪をなされませ」
「はあ?」
正時は、まるで駄々っ子のようだ。
「言うてはならぬ言葉で、ひどい侮辱を受けた方々への謝罪を」
「……間違えてはおらぬ。余四郎は、この婚約を正したいと考えてはおらぬと言うた。婚約の際は分からぬとして、今は男色であろう。ならば、間違えてはおらぬ! だから、謝る必要はない!」
伊良が首を傾げている間に、余四郎が口を開く。
「なんだ、それは」
「女を抱くより男を抱きたい男のことだ。抱かれたい方でも構わないが。くくっ。これはおかしい。嫁をもらうと言うて、自分が嫁だったというおちか。くはっ。くははははは」
とても愉快そうに、正時は笑い声を上げた。
伊良は、余四郎と顔を見合わせて、やはり首を傾げる。元服前の余四郎はもちろん、伊良もまだ閨の教育を受けてはいなかった。つまり、正時の言葉の意味がよく分からない。
「下品な!」
声を上げたのは、行成だ。珍しく怒りをあらわにして腰を浮かせている。
「恐れながら、申し上げます」
膳を横に避けて、ずいっと膝で前へとにじり出てきたのは直井家当主だった。太田家当主の隣へと進み、時行へ向かって深く頭を下げた。
「申せ」
行成の背をなだめるようになでて座らせた時行が言うと、直井は、はっと短く返事をして顔を上げた。
そして。
「正時さま!」
未だ、ひいひいと笑い声を上げている正時に向かって、直井は活を入れんばかりに大きな声を上げた。それから、居住まいを正して落ち着いた声音で続ける。
「お話、よろしいでしょうか。確とお聞きいただきたい。時行さまと我が子、行成が婚約を結んだ時、時行さまも、我が子、行成も齢八つでございました。同じころに婚約を結んだ余四郎さまは、齢五つであったと聞き及びます。余四郎さまの許婚、伊良も我が子と同じ八つ。その年齢の子どもが、男色だのなんだの分かりましょうや?」
ぎろりと睨まれて、正時は、はっと吐きすてる。
「軽口も解せぬか、直井。酒の席だぞ。つまらぬ男だ」
「つまらぬ男で結構。この世には、言うてよい軽口と言うてはならぬ軽口がございます。此度のは、言うてはならぬ軽口でございました」
正時は、直井から目をそらし、また手酌で酒を注いであおる。
「ふん……」
「謝罪を」
「は?」
「謝罪をなされませ」
「はあ?」
正時は、まるで駄々っ子のようだ。
「言うてはならぬ言葉で、ひどい侮辱を受けた方々への謝罪を」
「……間違えてはおらぬ。余四郎は、この婚約を正したいと考えてはおらぬと言うた。婚約の際は分からぬとして、今は男色であろう。ならば、間違えてはおらぬ! だから、謝る必要はない!」
640
あなたにおすすめの小説
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
婚約破棄された公爵令嬢アンジェはスキルひきこもりで、ざまあする!BLミッションをクリアするまで出られない空間で王子と側近のBL生活が始まる!
山田 バルス
BL
婚約破棄とスキル「ひきこもり」―二人だけの世界・BLバージョン!?
春の陽光の中、ベル=ナドッテ魔術学院の卒業式は華やかに幕を開けた。だが祝福の拍手を突き破るように、第二王子アーノルド=トロンハイムの声が講堂に響く。
「アンジェ=オスロベルゲン公爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」
ざわめく生徒たち。銀髪の令嬢アンジェが静かに問い返す。
「理由を、うかがっても?」
「お前のスキルが“ひきこもり”だからだ! 怠け者の能力など王妃にはふさわしくない!」
隣で男爵令嬢アルタが嬉しげに王子の腕に絡みつき、挑発するように笑った。
「ひきこもりなんて、みっともないスキルですわね」
その一言に、アンジェの瞳が凛と光る。
「“ひきこもり”は、かつて帝国を滅ぼした力。あなたが望むなら……体験していただきましょう」
彼女が手を掲げた瞬間、白光が弾け――王子と宰相家の青年モルデ=リレハンメルの姿が消えた。
◇ ◇ ◇
目を開けた二人の前に広がっていたのは、真っ白な円形の部屋。ベッドが一つ、机が二つ。壁のモニターには、奇妙な文字が浮かんでいた。
『スキル《ひきこもり》へようこそ。二人だけの世界――BLバージョン♡』
「……は?」「……え?」
凍りつく二人。ドアはどこにも通じず、完全な密室。やがてモニターが再び光る。
『第一ミッション:以下のセリフを言ってキスをしてください。
アーノルド「モルデ、お前を愛している」
モルデ「ボクもお慕いしています」』
「き、キス!?」「アンジェ、正気か!?」
空腹を感じ始めた二人に、さらに追い打ち。
『成功すれば豪華ディナーをプレゼント♡』
ステーキとワインの映像に喉を鳴らし、ついに王子が観念する。
「……モルデ、お前を……愛している」
「……ボクも、アーノルド王子をお慕いしています」
顔を寄せた瞬間――ピコンッ!
『ミッション達成♡ おめでとうございます!』
テーブルに豪華な料理が現れるが、二人は真っ赤になったまま沈黙。
「……なんか負けた気がする」「……同感です」
モニターの隅では、紅茶を片手に微笑むアンジェの姿が。
『スキル《ひきこもり》――強制的に二人きりの世界を生成。解除条件は全ミッション制覇♡』
王子は頭を抱えて叫ぶ。
「アンジェぇぇぇぇぇっ!!」
天井スピーカーから甘い声が響いた。
『次のミッション、準備中です♡』
こうして、トロンハイム王国史上もっとも恥ずかしい“ひきこもり事件”が幕を開けた――。
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる