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七十二
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時実の葬儀は、粛々と執り行われた。通夜から始まる一連の行事を、時行はしっかりと取り仕切り、その存在を城中に示して見せた。その傍らには、男姿で、喪主の伴侶としての役割を担う直井行成の姿があった。そして、元服前でありながら、兄をよく助けて動く余四郎もまた、皆が見惚れる働きぶりであった。その余四郎の傍らにも、男姿の許婚、飯原伊良が静かに寄り添っていた。
「ずうずうしくも親族席に座るのか」
全てを終えた最後、精進落としの席である。時行と余四郎、それぞれの隣に坐した行成と伊良へ、声を上げた男がいた。領主、時成の弟、正時である。正時が、通夜の席からずっと、若君方の傍らに侍る行成や伊良を睨みつけていることは、参列者の誰もが気付くほどであった。他にも、じろじろと眺めまわす者はたくさんいたが、不機嫌な様子を隠しもしなかったのは彼だけである。
ずっと、何か言いたげな様子を見せてはいた。だが、何しろ葬儀というのは、次から次へとやることがあって非常に忙しい。特に、喪主である時行とその伴侶役の行成は、目も回るほどの忙しさであった。手伝いもせぬ親族の相手をしている暇など、微塵もなかったのだ。
正時が、ようやく文句の一つも言えたのが、今、この時であった。行成と伊良が、散々に領主家親族としての手伝いをし、終えた後の精進落としの席。何を今更、といった空気が、参加している重臣や親族の間に漂っていた。
「ええ、叔父上。私の許婚であれば、何もおかしなことはありません」
「は。馬鹿馬鹿しい」
ぴくり、と時行の眉間に筋が走る。行成の手が、そっと時行の腕に添えられた。その手を見下ろして、時行が深呼吸をしたのが分かった。
「馬鹿馬鹿しいとは聞き捨てなりません」
時行が冷静に言葉を返したことに、伊良はほっと息を吐く。あとは、この食事の席さえ無事に終われば、時行の大仕事は終いなのだ。あと少しの辛抱である。時行の名が上がることを良しとしない人々の、無用の挑発に乗ることはない。
「馬鹿馬鹿しいだろう。男同士で婚姻したところで、何が生まれるというのだ。何も生まれはせぬ」
「それが父上の狙いなのですから、それでよいのです。何か問題でも?」
むっとして口をつぐんでしまった時行に代わって、まだ甲高い声が応えた。余四郎であった。伊良は、はらはらと余四郎と正時を見比べる。余四郎は、すました顔で叔父を見上げていた。
「子どもは黙っておれ」
冷たい声で返されて、余四郎は申し訳程度に頭を下げる。
「はは。では、兄上。お願いします」
「それが父上の狙いなのですから、それでよいのです。何か問題でも?」
余四郎は、下げた頭をすぐに上げると、時行の方を向いてけろりと言った。申し合わせたように、よく似たすました顔をした時行が口を開き、余四郎と同じ台詞を繰り返した。
「なっ……この! よくも……!」
がたり、と膳を揺らして正時が立ち上がる。
「躾のなっていない小僧が増長しおって! その生意気な態度、看過できぬ。このままでは、ろくな大人になれぬ故、この私が自らしつけ直してくれよう!」
すぐ近くから響く正時の大きな声に、伊良はびくりと肩を震わせたが、隣の余四郎はビクともしなかった。
「叔父上こそ、躾がなっておられないのでは? 亡くなられた時実兄上の鎮魂の場で、このように大声を出され、暴れられるとは。父上に登城禁止を言い渡されるのもやむなしと、思えてなりませんね」
余四郎がすまして答えると、正時はまた大声を上げた。
「言うた端から忘れたか! 子どもは黙っておれ!」
「叔父上こそ、躾がなっておられないのでは? 亡くなられた時実兄上の鎮魂の場で、このように暴れられるとは。父上に登城禁止を言い渡されるのもやむなしと、思えてなりませんね」
すかさず時行が同じ台詞を繰り返し、正時は顔を真っ赤にしてぷるぷると震え出した。
「ずうずうしくも親族席に座るのか」
全てを終えた最後、精進落としの席である。時行と余四郎、それぞれの隣に坐した行成と伊良へ、声を上げた男がいた。領主、時成の弟、正時である。正時が、通夜の席からずっと、若君方の傍らに侍る行成や伊良を睨みつけていることは、参列者の誰もが気付くほどであった。他にも、じろじろと眺めまわす者はたくさんいたが、不機嫌な様子を隠しもしなかったのは彼だけである。
ずっと、何か言いたげな様子を見せてはいた。だが、何しろ葬儀というのは、次から次へとやることがあって非常に忙しい。特に、喪主である時行とその伴侶役の行成は、目も回るほどの忙しさであった。手伝いもせぬ親族の相手をしている暇など、微塵もなかったのだ。
正時が、ようやく文句の一つも言えたのが、今、この時であった。行成と伊良が、散々に領主家親族としての手伝いをし、終えた後の精進落としの席。何を今更、といった空気が、参加している重臣や親族の間に漂っていた。
「ええ、叔父上。私の許婚であれば、何もおかしなことはありません」
「は。馬鹿馬鹿しい」
ぴくり、と時行の眉間に筋が走る。行成の手が、そっと時行の腕に添えられた。その手を見下ろして、時行が深呼吸をしたのが分かった。
「馬鹿馬鹿しいとは聞き捨てなりません」
時行が冷静に言葉を返したことに、伊良はほっと息を吐く。あとは、この食事の席さえ無事に終われば、時行の大仕事は終いなのだ。あと少しの辛抱である。時行の名が上がることを良しとしない人々の、無用の挑発に乗ることはない。
「馬鹿馬鹿しいだろう。男同士で婚姻したところで、何が生まれるというのだ。何も生まれはせぬ」
「それが父上の狙いなのですから、それでよいのです。何か問題でも?」
むっとして口をつぐんでしまった時行に代わって、まだ甲高い声が応えた。余四郎であった。伊良は、はらはらと余四郎と正時を見比べる。余四郎は、すました顔で叔父を見上げていた。
「子どもは黙っておれ」
冷たい声で返されて、余四郎は申し訳程度に頭を下げる。
「はは。では、兄上。お願いします」
「それが父上の狙いなのですから、それでよいのです。何か問題でも?」
余四郎は、下げた頭をすぐに上げると、時行の方を向いてけろりと言った。申し合わせたように、よく似たすました顔をした時行が口を開き、余四郎と同じ台詞を繰り返した。
「なっ……この! よくも……!」
がたり、と膳を揺らして正時が立ち上がる。
「躾のなっていない小僧が増長しおって! その生意気な態度、看過できぬ。このままでは、ろくな大人になれぬ故、この私が自らしつけ直してくれよう!」
すぐ近くから響く正時の大きな声に、伊良はびくりと肩を震わせたが、隣の余四郎はビクともしなかった。
「叔父上こそ、躾がなっておられないのでは? 亡くなられた時実兄上の鎮魂の場で、このように大声を出され、暴れられるとは。父上に登城禁止を言い渡されるのもやむなしと、思えてなりませんね」
余四郎がすまして答えると、正時はまた大声を上げた。
「言うた端から忘れたか! 子どもは黙っておれ!」
「叔父上こそ、躾がなっておられないのでは? 亡くなられた時実兄上の鎮魂の場で、このように暴れられるとは。父上に登城禁止を言い渡されるのもやむなしと、思えてなりませんね」
すかさず時行が同じ台詞を繰り返し、正時は顔を真っ赤にしてぷるぷると震え出した。
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