余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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四十九

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「伊之助さまの元服の話を、飯原いいはら家はどこかから聞いたのでは? おめでとうございます、とでも言われて、ありがとうございますと答えた手前、その際、聞いた日取りに、伊之助さまの元服の儀をしたという体裁を整えなくてはならなくなった」
「それで、呼び出し? それも、その日の早朝に? こんな落書きのようなもので? 訳が分からないな」
「あの、おかしいです」

 伊之助は、嗣治つぐはると左近の会話に口を挟む。飯原家が、伊之助の元服をどこかから聞いたなんておかしい。だって先生は。

「先生は、定期的に飯原の家にふみを送っている、と言っていました。私のことは、療養のために預かっているというていだから、と。一度も返事が来たことはないけれど、こちらは報告を怠っていない、と言っていたんです。どこかから聞かなくても、先生の文に書いてあるはずです。私の元服のことは、誰より先に知っているはずです」
「ほんとだ。おかしいな」

 余四郎は、伊之助の手を握ったまま、伊之助の言葉に頷いている。だが、他の者は、うーんと唸った。
 
「……あー、うん、まあ、うん。そうなんですが、多分、その文には目を通していなかったのかと。その、飯原家の当主は」

 嗣治が、歯切れ悪く言った。
 あ、そうか。
 伊之助は、不意に理解する。そうだ。読むわけないではないか。伊之助の近況報告の文など、あの家の誰が読むと言うのだ。

「そうでした……すみません……」

 なんだか申し訳なくなって、伊之助は身を縮める。この屋敷で大事にされすぎて、すっかり忘れていた。あの家の者にとって、伊之助には何ほどの価値もないことを。飯原の家名を名乗らせてもらっているのは、若君である余四郎の許婚であるから。それだけ。

「先生にも、申し訳ないことを……。忙しい中、手間をかけて文をしたためてくださっているのに、その……」
「いの。いのは何を謝っている? いのは悪いことをしたか?」
「していらっしゃいませんよ、四郎さま。伊之助さまが謝ることは何もありません」

 正平がすかさず答えて、そうだろう、と余四郎は頷いた。

「届いた文に目を通さない飯原が悪いと私は思うぞ? 謝るのは飯原だ」
「まったくもってその通り! 私もそう思います、四郎さま」

 小太郎も頷く。余四郎は、得意げに胸を張った。

「その日は、こちらの屋敷での予定が入っている。戻れない、と文を出せ、伊之助。それで終いだ」

 時行が高らかに宣言して、怪文書の件は、その日は終いとなった。 
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