余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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四十七

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「つまり、なにか?」

 小太郎が、その涼やかな眉間にきゅっとしわを寄せた。

「伊之助の元服の日を知って、わざわざその日に呼び出しをするといういやがらせか?」
「あ、なるほど」

 伊之助は頷く。さもありなん、と思って。
 困ったことだ。良庵先生や使用人の皆が一生懸命準備をしてくれている、せっかくの伊之助のハレの日に、わざわざ呼び出しをしてくるなんて。まさか、元服の祝いをくれる、なんてことはないだろう。いや、でも、もしかして、伊之助が元服すると聞いて、流石に祝いくらいは述べようと考えたりしてくれたのだろうか。良庵先生は飯原いいはら家に、元服をこちらで執り行う旨を記したふみを送ったと言っていた。若様の許婚である伊之助のことを思い出し、祝ってくれる気になったのかもしれない。主家との繋がりが持てることを、父は大層喜んでいたはず。ここで伊之助を蔑ろにしては、この繋がりに障りがある、とでも考えたのかもしれない。
 早朝、と書かれているのがせめてもだった。指定通り、なるべく早めに行って、早く戻ってくることとしよう。こちらでの大切な行事に遅れないようにしないといけないから。

「だが、そんなもの、行かなければいいだけの話じゃないですか?」
「だな。いやがらせにしては、なんというか、このふみに腹が立っただけのような気が……」

 嗣治つぐはると正平が首を傾げている横で、え? と伊之助は声を上げた。

「え?」
「どうしました?」

 いや、だって。

「行かなければ、いい……?」

 そんな選択肢が、あるのか。

「ええ、そうです」

 正平が、力強く頷く。

「行かなければいいのです。この文は、文の体裁を成しておりません。伊之助さまがもとより考えていた通りに、怪文書として扱えばよろしい」
「いや、でも、気付いてしまった」

 気付かずに知らん顔をしていたら、どんな目に合っていたことか。気付けて良かった。

「伊之助、よく考えよ。このような文の指示を聞いても、ろくなことはないぞ」

 小太郎は、もう文を破かんばかりの勢いだ。

「そうですよ。大体、子の元服を他家でしてもらうなど、恥でしか……」
「あ」
「あ」

 言いかけた嗣治と正平は、何かに気付いて顔を見合わせる。
 何だろうと伊之助が首を傾げた所へ、庭にいた若様方と新入りの護衛二人、小姓二人も皆、部屋へと入ってきた。

「どうした? 何の話だ?」
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