余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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四十

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 その日は結局、そのまま、小太郎も時行も、もちろん余四郎も良庵の屋敷へ居座り、大層賑やかな休日となった。人が増えて、伊之助が朝に準備した食べ物だけでは足りなくなってしまったため、子どもたちと草庵は昼前に町へ出かけて、食べ物を調達することにした。あまり動きたくない良庵は、いつも通りの留守番だ。
 昼は、共に出かけた皆で蕎麦屋の屋台で食べた。時行と小太郎は、屋台での食事が初めての体験だったらしい。最初は、おっかなびっくり出てきた蕎麦に口を付けたが、やがてひとすすりすると、 

「うまい!」
「美味しい……」

 と、声を上げた。藩校の休日には、ほとんどの時間を良庵の屋敷で過ごしている余四郎は、すでに何度か伊之助と草庵と共に蕎麦を食べたことがあったので、そうだろうそうだろうと、もっともらしく頷いていた。伊之助は、得意げに頷いている余四郎を、可愛いなあと眺めた。先ほど、不覚にも涙をこぼしてしまった伊之助を抱きしめてくれた際には、大層格好が良かったが、今はとても可愛い。格好良くて可愛い四郎さまが、伊之助は大好きだった。
 この人と、これからもずっと一緒なのだなあ、と思うと伊之助は、嬉しくて頬が緩むのを止められない。今泣いた烏がもう笑った、ってのはこういうことか、なんて考えて、ますます頬は、にこにこと緩んでいった。
 余四郎は、二回も朝食を食べたはずなのに、大人と同じ量の蕎麦をぺろりと平らげた。朝食が遅かったため、一人前入らなかった伊之助と小太郎の分は、時行が全部平らげてくれた。
 腹が膨れた後は、ぶらぶらと歩いて店や屋台を覗く。
 留守番の良庵の昼食にと、屋台で稲荷ずしを買った。それも味見をしたい、と言った時行の分と、私も、と小さな声で言った小太郎の分、私も食べる、と当然のように言った余四郎の分も付け足しで買った。それを八つ時に食べようか、などと言いつつ歩いていると、団子屋の前でも余四郎が足を止める。みたらしの付いた団子からは良い匂いが漂っていて、結局、それも皆の分買った。時行と余四郎の護衛や小姓の分、良庵の屋敷で待つ、直井家からの小太郎の迎えの者の分まで大盤振る舞いである。
 散々に寄り道して屋敷へ帰った。とても楽しかったと、皆が笑顔であった。たくさんの土産を見た良庵は、やれやれと言いつつ笑った。

「子どもがたくさんいると、食い物代がかかって仕方ねえなあ」

 なんてぼやくから、伊之助が申し訳なさに身を縮めると、ああ、そうじゃねえ、伊之助、と頭を撫でてくる。

「幸せだってことだ。私は幸せなんだよ」
「ちげえねえ」

 草庵も、笑って頷いている。

「私たちは二人でも充分幸せだったけど、伊之助がうちに来て、もっと幸せになった。それは間違いねえよ」
「そ、そうですか……」
「とはいえ、若様方の食欲が旺盛なのには困ったもんだ。特別手当の申請ができないもんですかねえ」
「父上に会えたら伝えておこう」

 時行が気安く請け負う言葉に皆で笑った。
 小太郎の突然の訪問から始まった一日は、このようにして、大層楽しい一日となった。 
  
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