余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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二十一

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「先生と相談しますね」

 いつもとは違う笑顔で、草庵は言った。ずいぶんと帰りの遅かった良庵との間でどんな話がなされたのか、子どもは寝る時間だと、暗くなって早々に布団に入れられた伊之助には分からない。けれど、翌朝、いつもより早起きしてきた良庵は、伊之助の元へ来て右腕の添え木を付けなおしてくれた。より動かないようにするため、首から布で腕を吊ってくれて、無理はしないように、と言った。
 添え木を付けなおす間の痛みに、必死に唇を噛みしめていた伊之助は、良庵のその言葉に、ぽかんと口を開けた。

「痛い時や辛い時、我慢をしたりしないように。武士だって、痛い時は痛いもんだ」
「え、ええっと……」
「いくら医者でも、言ってもらわねば、どこが悪いのか、痛んでいるのか分からん。我慢しているうちに悪化して手の施しようがなくなっては、私が必死に学んだことがすべて無駄になってしまう」
「は……い」
「いい子だ」
「……」

 どこでも、うるさくすると怒られた。屋敷で、伊之助が気安く話しかけることのできる相手などいなかった。皆、奥方様の機嫌を損ねないように気を付けていたから。でも、父が存在を認めた子どもだから、それなりに伊之助の世話をしなくてはならなかった。
 体調を崩した時、転んで怪我をした時。いつも、手当てはしてもらえた。けれど、仕事が増えて迷惑だ、という態度を誰も隠さなかった。伊之助なりに、迷惑を掛けぬよう心がけてはいる。でも、今回のように、怪我をすることを避けられない出来事は度々あった。そんな時、伊之助にできることは、唇を噛んで、せめて声を出さぬよう我慢することだけ。そうしていれば、少なくとも放っておいてもらえた。困った顔を見なくて済む。ため息を聞かずに済む。
 それを、するな、と言われるなんて。
 でも、良庵先生の学んだことが無駄になってしまう、と言われたら、それは駄目だな、と分かった。だから伊之助は、戸惑いながらも、はい、と頷いた。すぐに、痛い、苦しい、辛い、を伝えることは難しいかもしれないけれど、良庵先生のこの言葉は覚えていよう。
 その日は、草庵は家に残って、伊之助さまと共に寺子屋へ行きます、と言ってくれた。伊之助は、素直に甘えて頷いた。
 だから、いつも通り屋敷を訪ねてきた余四郎に二人は言ったのだ。

「今日は、寺子屋へ行ってきます。連絡が間に合わず、すみません。今日は、四郎さまと遊べません」

 だが、てらこやとはなんだ? と首を傾げた余四郎は、藩校のようなところです、という草庵の説明を聞いてこう言った。

「しろうもいく」
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