余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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「おい、」 
「なかなか相性が良いようだ」

 言うことを聞かず、笑顔を浮かべる伊之助が気に入らなかったのだろう。更に小言を言い募ろうとした父は、殿様の言葉に、はっとして居住まいを正した。

「はっ。もったいなきお言葉にて」

 父は、すぐに返事をする。まるで、父たちに呼び出されている時の伊之助のように。
 普段は見られない父の様子を見られただけでも、ここに来た甲斐はあったかもしれない、と伊之助は思った。三日間、大変だったけれど。

「どうせなら、仲良くあれる相手がよい。差し出されたからと、何でも受け取る訳ではないぞ、成就なりなり。……余四郎、どうだ?」
「殿。差し出す、など、そのような。この話は、この者もしかと得心しておることにて」
 
 殿様は、伊之助の父をじろりとひと睨みしてから、隣の余四郎へと視線を移した。身を縮める父、というのが何だか可笑しくて、伊之助はまた、こそりと笑ってしまった。
 それにしても、差し出された、か。お殿様には、父たちの魂胆が見え見えらしい。伊之助が、この話に得心などしていないと伝わってしまったのだろうか。まあ、伝わっても仕方ない。伊之助は今も、心の内では首を傾げながらここに座っているのだから。
 一体、自分はこの後どうなるのだろう。窮屈な女物の着物を、ずっと着ることになるのでなければよいな。うん。今、願うのはそのくらいだ。
 というか、父の名前は成就なりなりというのか。初耳だ。なりなり。なりなり?
 ふはっ。
 なんだ。今日、楽しいな。

「どう?」

 前を向けば、余四郎が首を傾げている。可愛い。

「伊之助と、仲良うできそうか」
「……」

 殿様の言葉に、余四郎の大きな目が伊之助を見た。伊之助は、あ、と口元を引き締めたがもう遅い。伊之助の笑顔につられるように、余四郎がにぱっと笑った。

「はい、ちちうえ」
「そうか」

 殿様は、笑い合う二人を見て機嫌よく宣言した。

「では良い。決まりだ。本日ただいまより、飯原いいはら家が次男、伊之助が、玉乃川たまのがわ家四男、余四郎の許婚いいなずけとなる」
「ははっ」

 父が、勢いよく頭を下げた。伊之助も、慌てて同じように頭を下げる。
 どうやら、父たちの思惑通りに話は進んだらしい。指示に背いたことへのお咎めは受けずに済みそうだ、と伊之助はほっとした。 
 
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