3 / 110
三
しおりを挟む
あっという間に三日が過ぎた。
伊之助は父に連れられて城へと上がった。
「くれぐれも粗相のないように」
と、奥方に言われたが、無理かもしれない。城の広く長い廊下を歩く父についていくことができず、何度も、早く歩けと叱責された。そう言われても無理である。ぎゅうぎゅうと帯を締めて着つけられた女物の着物はちっとも足が開かず、思うように歩けない。たった三日で、女物の着物を着ての所作に慣れることなどできなかったのだ。
何故かやる気にあふれた奥方や、冷やかしにきては口も手も出す姉の厳しい指導を受けて、なんとかかんとか自分で着付けができるようにはなったが、立ったり座ったり動き回ったりするのはまだ難しかった。城へと上がっただけで疲労困憊である。出かける直前にも、姉の駄々こねに煩わされたというのに。
本日、伊之助が身に付けている上等な振袖は姉のお気に入りの品であったらしく、出がけにたまたま出会ってしまった姉に、脱げ返せと散々に喚かれたのだ。出かけるぞ、と呼びに来た父が気付いて姉に一喝し、何とか事なきを得た。
父と姉の話をよく聞けば、少々体格の良い姉にはもう丈の短い代物とのこと。なんだ、着られなくなった品か、と伊之助は心の底から安堵した。伊之助とて、着たくて着ているわけではないのだ。城へ上がるならば、父のように紋付の裃などでありたかった。髪をしっかりと上部で一つにまとめ、正装をした父がなかなかに見栄えが良かったからこそ、余計に。伊之助の、大して長さのなかった髪を無理矢理上げて女のように結われているのも、痛くてたまりやしない。
散々だ。これまでの生活が良かったとも言えないが、この三日ほどに比べれば全然ましだったな。そんなことを考えながら伊之助は、父と共に、顔合わせとやらの会場へと着いたのだった。
伊之助は父に連れられて城へと上がった。
「くれぐれも粗相のないように」
と、奥方に言われたが、無理かもしれない。城の広く長い廊下を歩く父についていくことができず、何度も、早く歩けと叱責された。そう言われても無理である。ぎゅうぎゅうと帯を締めて着つけられた女物の着物はちっとも足が開かず、思うように歩けない。たった三日で、女物の着物を着ての所作に慣れることなどできなかったのだ。
何故かやる気にあふれた奥方や、冷やかしにきては口も手も出す姉の厳しい指導を受けて、なんとかかんとか自分で着付けができるようにはなったが、立ったり座ったり動き回ったりするのはまだ難しかった。城へと上がっただけで疲労困憊である。出かける直前にも、姉の駄々こねに煩わされたというのに。
本日、伊之助が身に付けている上等な振袖は姉のお気に入りの品であったらしく、出がけにたまたま出会ってしまった姉に、脱げ返せと散々に喚かれたのだ。出かけるぞ、と呼びに来た父が気付いて姉に一喝し、何とか事なきを得た。
父と姉の話をよく聞けば、少々体格の良い姉にはもう丈の短い代物とのこと。なんだ、着られなくなった品か、と伊之助は心の底から安堵した。伊之助とて、着たくて着ているわけではないのだ。城へ上がるならば、父のように紋付の裃などでありたかった。髪をしっかりと上部で一つにまとめ、正装をした父がなかなかに見栄えが良かったからこそ、余計に。伊之助の、大して長さのなかった髪を無理矢理上げて女のように結われているのも、痛くてたまりやしない。
散々だ。これまでの生活が良かったとも言えないが、この三日ほどに比べれば全然ましだったな。そんなことを考えながら伊之助は、父と共に、顔合わせとやらの会場へと着いたのだった。
584
お気に入りに追加
475
あなたにおすすめの小説

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

鬼は精霊の子を愛でる
林 業
BL
鬼人のモリオンは一族から迫害されて村を出た。
そんなときに出会った、山で暮らしていたセレスタイトと暮らすこととなった。
何時からか恋人として暮らすように。
そんな二人は穏やかに生きていく。

彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

幸せになりたかった話
幡谷ナツキ
BL
このまま幸せでいたかった。
このまま幸せになりたかった。
このまま幸せにしたかった。
けれど、まあ、それと全部置いておいて。
「苦労もいつかは笑い話になるかもね」
そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる