余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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 あっという間に三日が過ぎた。
 伊之助は父に連れられて城へと上がった。

「くれぐれも粗相のないように」

 と、奥方に言われたが、無理かもしれない。城の広く長い廊下を歩く父についていくことができず、何度も、早く歩けと叱責された。そう言われても無理である。ぎゅうぎゅうと帯を締めて着つけられた女物の着物はちっとも足が開かず、思うように歩けない。たった三日で、女物の着物を着ての所作に慣れることなどできなかったのだ。
 何故かやる気にあふれた奥方や、冷やかしにきては口も手も出す姉の厳しい指導を受けて、なんとかかんとか自分で着付けができるようにはなったが、立ったり座ったり動き回ったりするのはまだ難しかった。城へと上がっただけで疲労困憊である。出かける直前にも、姉の駄々こねに煩わされたというのに。
 本日、伊之助が身に付けている上等な振袖は姉のお気に入りの品であったらしく、出がけにたまたま出会ってしまった姉に、脱げ返せと散々に喚かれたのだ。出かけるぞ、と呼びに来た父が気付いて姉に一喝し、何とか事なきを得た。
 父と姉の話をよく聞けば、少々体格の良い姉にはもう丈の短い代物とのこと。なんだ、着られなくなった品か、と伊之助は心の底から安堵した。伊之助とて、着たくて着ているわけではないのだ。城へ上がるならば、父のように紋付のかみしもなどでありたかった。髪をしっかりと上部で一つにまとめ、正装をした父がなかなかに見栄えが良かったからこそ、余計に。伊之助の、大して長さのなかった髪を無理矢理上げて女のように結われているのも、痛くてたまりやしない。
 散々だ。これまでの生活が良かったとも言えないが、この三日ほどに比べれば全然ましだったな。そんなことを考えながら伊之助は、父と共に、顔合わせとやらの会場へと着いたのだった。
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