【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

文字の大きさ
上 下
80 / 83

80 家族

しおりを挟む
 封印が成されたことを確かめたイズモが城へ戻ると、ヤクモがベッドでぐずっていた。

「おふよ……。」

 ぐったりとベッドに沈んだまま呟いている。ワカヒコが、タオルでヤクモの汗を拭いてから、傷だらけの皮膚に香油を塗り込んでいたのだろう。ヤクモヘ服を着せながら答える。

「お風呂ですか?一人で座れるようになったら入っていいですよ。」
「……や。ぃま、はいゆ。」
「その、先生?」

 トキが口を挟んだ。

「はい。」
「すみません。ヤクモ様が治療の前より具合が悪くなっているように見受けられるのですが。」
「ああ。」

 ワカヒコは、落ち着いた様子で頷いた。

「ヤクモ様の体の具合で言えば、今までの動きの方が驚きですよ。この体でそんなに動いたら死にます。」
「え?え?死?」 
「ええ。死にます。」
「そんな……。」

 部屋にいたトキとヌイ、そして帰ってきた三人にも言い聞かせるように、ワカヒコは言った。

「人には、これ以上無理をすると体が壊れる、心が壊れる、という限界があって、壊れる前に動けなくなったり、眠ったりして自分で自分を守るものなんです。それが、その機能が、ヤクモ様は働いていなかった。限界を超えすぎて、何度も死にかけたのでしょう。その度に、運良く生きてきた。だから、まだ大丈夫、と体や心が判断するのが人より遅いのです。ちっとも大丈夫じゃなくても、大丈夫と判断してしまうんです。」

 なんてこと、とヌイが呟いて、手で口を覆った。ヤクモの望むままに、掃除や料理をさせてきてしまった。

「これまでは、運良く生き残れた。でも、いつまでその幸運が続くか分かりませんからね。治療して、限界点を戻します。だから、暫くは動けないし、しょっちゅう眠くなったり苦しくなったりするかと思うんです。でも、悪くはなっていません。正常な反応を取り戻す過程だと理解して頂きたい。」

 ワカヒコが頭を下げると、トキが慌てて言った。

「ああ。すみません。差し出がましい真似を。あの、ヤクモ様を治療してくださって、ありがとうございます。」
「いえ、心配になるのは当然のことです。ご家族様の不安も取ってこそ、医者ですからね。」

 ワカヒコは、にっこりとカナメヅカの四人とイズモを見渡した。

「不安なことは、何でもおっしゃってください。」

 そして、ベッドでふて腐れた顔で寝息を立て始めたヤクモを見て、ほっと息を吐き、部屋を出ていった。

「家族……。」

 ぽつり、とベッドに腰掛けたイズモが呟く。

「家族だって……。」

 ヤクモの頭を撫でながら、しみじみと。
 遠く忘れていた言葉を聞いた。それは何だか、ひどくあたたかく響いた。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

処理中です...