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72 離宮の使用人
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王妃のいる上等な客間に着いた。リンドウが、一応ノックをしたが、返事が無いことは分かっていた。何故なら今、王妃ノバラは話すことができないのだから。
「母上、失礼します。」
何を伺うこともなく、全員で部屋へと入る。ベッドに身をもたせかけて座っていた王妃ノバラは、盛大に眉をひそめた。
女性の部屋へ、しかも、体調を崩してベッドにいる部屋着姿の女性の部屋へ、大勢で、男性まで押しかけるなど、あり得ない。
文句を言いたいが、その口から言葉を紡ぐことはできないため、更に苛々は募った。
その上、リンドウ以外の人間は挨拶もしない。まるで、無人の部屋を使用するために入ってきたかのようにソファに座った。カナメヅカの人間は、ヤクモを虐待したのがノバラだと知っているので、欠片も敬意を払う気が無かった。宰相の中では、ノバラは罪人であり、ここは貴族牢であった。
ワカヒコは事情を知らないので、一応ベッドは気にしている。表に出ない王妃の顔を知らなかったが、リンドウが母上と呼んだので、何となく王妃なのだろう、とは思った。
リンドウのことも、名乗られたので、この国の王女なのだろうとつい先ほど知ったばかりである。
「何故、この部屋に?」
「ヤクモ様の虐待についての話と、この先の話を。時間が無いので、様々な件をひと息にやっていきたい。」
宰相は人を呼んで、今、離宮にいる使用人を一人残らず連れてくるように申し付けた。大雨だろうがなんだろうが関係ない。濡れたら拭けばよい、と。
それから宰相は、淡々とイズモに聞いた塔の封印の話をし、リンドウが自分のやってきたことを説明した。カナメヅカは、時々、見解の相違があれば述べた。塔での二人の様子も、治療の役に立てばとワカヒコに話した。
ヤクモのあの体は、ノバラの仕業であるだろう、と言った時にワカヒコはこの部屋とノバラへの扱いの意味を理解した。
そして、溜め息を吐く。治療に必要な部分だけ聞かせてくれれば良いものを、どうやら、国家の機密を知ってしまったようだ、と。
そうしていると、部屋がノックされた。入れ、と宰相が声をかけると、大量の人間がぞろぞろと入ってくる。メイド、料理人、下働き、護衛、医師……。今日は、大雨で登城できず休んだ者も多かったため、城には人が少ないというのに、離宮の者は皆、出勤していたのだろうか。
「こんなにいたのか……。」
宰相も驚いている。
「まあ、いい。確認したいことがある。それと、離宮は間もなく封じられるため、そなたらの仕事を新しく探さなくてはならない。城でそのまま雇える人数には限りがあるため、城勤めはクビとなる。そのまま放り出すことにはならぬよう考えるので、理解してほしい。」
連れてこられた使用人達は、本当にそんなに人がいるのか、と思うほど静かだった。クビだと言われたのに、誰も何も言わない。不気味なほど整然と姿勢を正して立っていた。
リンドウは、ぞっとしながら思い出す。何かと言えば、ノバラ様のご命令でございます、と繰り返す使用人達。これが始まると、全く言葉が通じなかった。普段は、気安く軽口も叩いてくれるメイドや料理人も、リンドウが母の意向に沿わぬことをすると、壊れたように繰り返すのだ。
ノバラ様のご命令でございます、と。
あれは、今思えば、神力を使って、何か制約をかけていたということなのだろうか。
この人数に?と背筋に冷や汗が伝う。
神力の勉強をし始めたばかりのリンドウには、その力がただただ恐ろしかった。
「母上、失礼します。」
何を伺うこともなく、全員で部屋へと入る。ベッドに身をもたせかけて座っていた王妃ノバラは、盛大に眉をひそめた。
女性の部屋へ、しかも、体調を崩してベッドにいる部屋着姿の女性の部屋へ、大勢で、男性まで押しかけるなど、あり得ない。
文句を言いたいが、その口から言葉を紡ぐことはできないため、更に苛々は募った。
その上、リンドウ以外の人間は挨拶もしない。まるで、無人の部屋を使用するために入ってきたかのようにソファに座った。カナメヅカの人間は、ヤクモを虐待したのがノバラだと知っているので、欠片も敬意を払う気が無かった。宰相の中では、ノバラは罪人であり、ここは貴族牢であった。
ワカヒコは事情を知らないので、一応ベッドは気にしている。表に出ない王妃の顔を知らなかったが、リンドウが母上と呼んだので、何となく王妃なのだろう、とは思った。
リンドウのことも、名乗られたので、この国の王女なのだろうとつい先ほど知ったばかりである。
「何故、この部屋に?」
「ヤクモ様の虐待についての話と、この先の話を。時間が無いので、様々な件をひと息にやっていきたい。」
宰相は人を呼んで、今、離宮にいる使用人を一人残らず連れてくるように申し付けた。大雨だろうがなんだろうが関係ない。濡れたら拭けばよい、と。
それから宰相は、淡々とイズモに聞いた塔の封印の話をし、リンドウが自分のやってきたことを説明した。カナメヅカは、時々、見解の相違があれば述べた。塔での二人の様子も、治療の役に立てばとワカヒコに話した。
ヤクモのあの体は、ノバラの仕業であるだろう、と言った時にワカヒコはこの部屋とノバラへの扱いの意味を理解した。
そして、溜め息を吐く。治療に必要な部分だけ聞かせてくれれば良いものを、どうやら、国家の機密を知ってしまったようだ、と。
そうしていると、部屋がノックされた。入れ、と宰相が声をかけると、大量の人間がぞろぞろと入ってくる。メイド、料理人、下働き、護衛、医師……。今日は、大雨で登城できず休んだ者も多かったため、城には人が少ないというのに、離宮の者は皆、出勤していたのだろうか。
「こんなにいたのか……。」
宰相も驚いている。
「まあ、いい。確認したいことがある。それと、離宮は間もなく封じられるため、そなたらの仕事を新しく探さなくてはならない。城でそのまま雇える人数には限りがあるため、城勤めはクビとなる。そのまま放り出すことにはならぬよう考えるので、理解してほしい。」
連れてこられた使用人達は、本当にそんなに人がいるのか、と思うほど静かだった。クビだと言われたのに、誰も何も言わない。不気味なほど整然と姿勢を正して立っていた。
リンドウは、ぞっとしながら思い出す。何かと言えば、ノバラ様のご命令でございます、と繰り返す使用人達。これが始まると、全く言葉が通じなかった。普段は、気安く軽口も叩いてくれるメイドや料理人も、リンドウが母の意向に沿わぬことをすると、壊れたように繰り返すのだ。
ノバラ様のご命令でございます、と。
あれは、今思えば、神力を使って、何か制約をかけていたということなのだろうか。
この人数に?と背筋に冷や汗が伝う。
神力の勉強をし始めたばかりのリンドウには、その力がただただ恐ろしかった。
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