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76 塔の悪魔
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ぽかり、と目が覚めた。
また、体が少し熱くて汗もかいていたけれど、何だか呼吸がしやすい。
自分の体から良い匂いがして、ふふ、とヤクモは笑った。
喉が渇いた、と体を起こそうとするが、思い通りには動かない。まるで体から力が全部抜けてしまったようだ。
「ふえぇ。」
変な声が出た。
「ヤクモ様?お目覚めですか?」
トキが声をかけてくる。
「みじゅ……。」
「水?お水飲みますか?蜜は?」
ヤクモが軽く首を横に振るのをみて、コップに水を入れてくれた。ヤクモは起き上がれない。
トキは、手前に寝ているイズモを、申し訳無さそうに揺らした。
「ん……。」
ぼんやりと起きたイズモは、ずいぶん深く眠っていたようだ。
「イズモ様、申し訳ありません。ヤクモ様がお水を飲みたいそうですが、起き上がれないみたいで。」
「ああ。うん。分かった。」
ぼんやりとしているが、イズモは起き上がれたようだ。よいしょ、とヤクモの体を抱き上げる。ヤクモは、体に全く力が入っていなかった。コップも持てないので、イズモが預かって口移しで飲ませる。
「ワカヒコ先生を呼んできますね。」
トキが出て行った。
その途端、ベッドの上に、黒い小型の犬くらいのもやが現れる。
「ああ、くろ。早かったね。」
イズモが言った。くろ、と呼ばれた黒いもやは、すり寄るようにヤクモに近付いた。
「駄目だよ。ヤクモとは繋がらないで。この城には、他にもたくさんいるからね。」
ベッドヘッドにもたれ掛かって、くったりと力の入らないヤクモを抱きしめる。
ワカヒコを連れたトキが帰ってきた。
「きゃあ。」
ベッドの上のくろに気付いて、トキが声を上げる。ワカヒコも、足を止めた。ヒカゲが部屋に飛び込んでくる。
「イズモ様、これは……?」
ヒカゲが剣を構えながら口を開く。
「これが、くろだよ。」
「くろ。」
「僕が、封じていたもの。」
「剣は効きますか。」
「無理だねえ。」
「近付くと危険でしょうか。」
ワカヒコの言葉に、イズモは少し考える。
「大丈夫。くろは、何もしない。」
「何も?」
「そう、何も。くろは、酷い悪意を勝手に取り込んでしまうだけ。そして、天を荒らしてしまうだけ。大好きなムラクモはもういないから寂しい。だから、ムラクモと同じにおいのする血筋の者が恋しくて、寄ってくるんだ。」
「へ、え……。これを、封印するのですね。」
「そうだね。くろも、帰れたらいいのだけれど。」
「帰る……。」
「元いたところ?それとも、ムラクモのところかな……。」
しんみりと、イズモは言った。くろはただ、ベッドの上にいる。
「これが。これが、塔の悪魔……?」
構えた剣をどうしたらいいのか分からずに、ヒカゲが呟く声がただ部屋に静かに響いた。
また、体が少し熱くて汗もかいていたけれど、何だか呼吸がしやすい。
自分の体から良い匂いがして、ふふ、とヤクモは笑った。
喉が渇いた、と体を起こそうとするが、思い通りには動かない。まるで体から力が全部抜けてしまったようだ。
「ふえぇ。」
変な声が出た。
「ヤクモ様?お目覚めですか?」
トキが声をかけてくる。
「みじゅ……。」
「水?お水飲みますか?蜜は?」
ヤクモが軽く首を横に振るのをみて、コップに水を入れてくれた。ヤクモは起き上がれない。
トキは、手前に寝ているイズモを、申し訳無さそうに揺らした。
「ん……。」
ぼんやりと起きたイズモは、ずいぶん深く眠っていたようだ。
「イズモ様、申し訳ありません。ヤクモ様がお水を飲みたいそうですが、起き上がれないみたいで。」
「ああ。うん。分かった。」
ぼんやりとしているが、イズモは起き上がれたようだ。よいしょ、とヤクモの体を抱き上げる。ヤクモは、体に全く力が入っていなかった。コップも持てないので、イズモが預かって口移しで飲ませる。
「ワカヒコ先生を呼んできますね。」
トキが出て行った。
その途端、ベッドの上に、黒い小型の犬くらいのもやが現れる。
「ああ、くろ。早かったね。」
イズモが言った。くろ、と呼ばれた黒いもやは、すり寄るようにヤクモに近付いた。
「駄目だよ。ヤクモとは繋がらないで。この城には、他にもたくさんいるからね。」
ベッドヘッドにもたれ掛かって、くったりと力の入らないヤクモを抱きしめる。
ワカヒコを連れたトキが帰ってきた。
「きゃあ。」
ベッドの上のくろに気付いて、トキが声を上げる。ワカヒコも、足を止めた。ヒカゲが部屋に飛び込んでくる。
「イズモ様、これは……?」
ヒカゲが剣を構えながら口を開く。
「これが、くろだよ。」
「くろ。」
「僕が、封じていたもの。」
「剣は効きますか。」
「無理だねえ。」
「近付くと危険でしょうか。」
ワカヒコの言葉に、イズモは少し考える。
「大丈夫。くろは、何もしない。」
「何も?」
「そう、何も。くろは、酷い悪意を勝手に取り込んでしまうだけ。そして、天を荒らしてしまうだけ。大好きなムラクモはもういないから寂しい。だから、ムラクモと同じにおいのする血筋の者が恋しくて、寄ってくるんだ。」
「へ、え……。これを、封印するのですね。」
「そうだね。くろも、帰れたらいいのだけれど。」
「帰る……。」
「元いたところ?それとも、ムラクモのところかな……。」
しんみりと、イズモは言った。くろはただ、ベッドの上にいる。
「これが。これが、塔の悪魔……?」
構えた剣をどうしたらいいのか分からずに、ヒカゲが呟く声がただ部屋に静かに響いた。
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