【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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67 不敬

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「衛兵、おるか!」 

 宰相が、鋭い声を上げた。廊下に控えていた兵が、部屋の中に入ってくる。
 自分に向かって、飛び掛かりそうな様子の男二人を拘束するのだろうか、と思って見ていた医師は、こやつを拘束せよ、と宰相が示した先を見て驚いた。衛兵は、躊躇うこともなく指示通りに動く。医師は、あっという間に両腕を背中に回されて、縄で縛られた。

「な、何をなさいます?」
「不敬罪だ。一昨日の診察時にも、殿下に対して職務を果たさなかった疑惑がある。」
「殿……下。」

 一昨日診察した時に、目を開いた状態で会うことはないだろう、と思った子だ。
 身体中の、手当てもされないままに塞がった傷痕は汚ならしくて、触れることも厭わしかった。
 その時に治さなくてはいけない症状は、体を冷やしたことによる発熱のみだと思われた。通常なら、水分を取って薬を飲んで看病の手さえあれば命には関わらないだろう。
 だが、あまりに細く衰弱した体が、その高熱に耐えられるとは思えなかった。このまま意識が戻らなければ、薬を飲むこともできないだろう。水分を摂らせる方法は様々あるが、伝える必要性も感じなかった。
 何故、こんな底辺に生きているような子どもの診察に、自分が呼ばれたのかが分からない、と思っていた。
 代々、宮廷医師を勤める家系に生まれ、勉強を終えたら宮廷で勤めた医師は、綺麗な患者しか診たことがなかった。王族の、定期的な健診が主な業務内容であり、怪我などもほとんど診ることはない。
 手が汚れるような仕事は、部下に任せておけば良いのだから。その部下も、酷い状態の患者は、更に下の者に任せているようだ。もし、手違いがあったり、手当てが間に合わなくて死んでしまった時に、相手が高位貴族だとどんな理不尽を言われるか分からない。身分の低い医師に任せて責任を取らせるのが常だった。
 このような汚ならしい子どもが、発熱で命を失ったとして、責任を取らされることもないだろう。
 確かに、診察した時に王や王妃、側妃までこの部屋にいて話をしていた。この子どもが、王の子かどうかという話だったが、結局誰にも分からず、王妃や側妃は素知らぬ顔で出ていった。国王も、何も言ってこなかったので、今呼ばれるまで、一昨日の診察のことは忘れていたくらいだ。
 本人が診察を嫌がっているのなら、放っておけばよいだろう?あの汚ならしい体を見たくないし、ましてや触れたくない。嫌がってくれて、お互いに良かったではないか。
 よく分からぬ平民の女が、喉の薬などと言っているが、聞いたこともない。
 王の子?
 私は、こんな子を診察した覚えがない。
 王族方の定期的な健診の時に、見ていない。
 宰相閣下は、何か勘違いをしているのだ。

「先日の発熱の件なら、しっかりと薬を渡しております。」
「意識の無いものに、飲み薬を渡すのが治療なのか?」

 リンドウが、低い声を出した。

「私の弟への不敬、しかと身に刻ませよ。」

 
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