【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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65 おうち、かえる

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「どうか、今暫くこの城に滞在して頂きたい。」

 宰相は、額を床に擦り付けて願った。
 ヤクモは、ソファに座ったイズモにぺったりとくっつきながら、早くおうちに帰りたい、と思っていた。
 色んな人があちらこちらで色んなことを話している。何を言ってるのだか、誰の話なのだか、さっぱり分からない。
 を出てから、話しかけられる言葉が意味の分からないものばかりなのだ。自分に話しかけられているものもあるのかもしれないが、それも分からない。
 気付いたらイズモがいて、やっと何を言ってるのか分かった時は、ほっとした。
 昨日は、やっとご飯をもらえると喜んで移動したら、一番怖い場所で、お腹が空いているのに、とてもそこにいることはできなかった。
 そこから、少しの間の記憶がない。
 イズモが、とにかく優しくくっついて、わかる言葉で話しかけてくれたから、ヤクモの言いたいことを全部分かってくれたから、落ち着くことができたけれど、ここは嫌だ。
 ご飯を久しぶりに食べて、ぐっすり寝たのに、何だか気持ち悪い。もやもやとする。体も汗でべたべたしてる。
 そうだ、お風呂に入ればいいんだ、と思ったのに、おうちにいるときみたいに、入りたいときにお風呂に入れない。
 お水に蜜も入っていない。だからご飯を食べると、ほんの少し喉にひりっとした痛みがある。そんなの、今までの痛みに比べたらなんてこと無いはずなのに、いらいらとするのだ。
 イズモが一緒に寝てくれた。体もタオルですっきり拭いてくれた。
 ヌイが料理を並べてる。皆で、ご飯を食べる。おうちと同じ。同じはずなのに、近くで話してくる知らない人がいて、イズモも何かよく分からない話をしている。
 いらいらする。
 俺は、おうちに帰りたい。
 ヤクモはイズモにしがみついて、心のままに口を開いた。

「ぃやっ。」

 掠れて、息の漏れた小さな声。
 でも、確かにヤクモの口からそれは聞こえたのだ。
 イズモは、しがみついていたヤクモを少し持ち上げて顔を覗きこんだ。
 ヒカゲは、食卓から急いでソファまで駆けつけてきた。

「ヤクモ?」

 ヤクモはきょとんと目を瞬かせる。

「ヤクモ様。今、声が。」

 ヒカゲが弾んだ声でヤクモに告げる。

「話せます。聞こえますよ。」

 話せる?声が出る?
 ヤクモは、口を開こうとして怖くなって閉じてしまう。

「ヤクモ、大丈夫。聞かせて。みんな、聞いてるよ。」

 うん。

「ぉうち、かぇゆ。」
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