【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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63 ムラクモの使い魔

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 客間のベッドで抱き合って寝ていたイズモとヤクモが起きたのは、翌朝のことだった。
 夕方頃から寝ていたので、イズモもずいぶん疲れていたのだろう。
 ヤクモは熱を散らすための発汗で汗だくであった。
 寝起きなのに疲れた顔でぐったりしている。熱は下がったらしく、頬の赤みは引いていた。
 すっきり起きたイズモは、ぐったりとしがみつくヤクモの顔や体を濡れたタオルで拭いていく。
 同じ部屋のソファに寝ていたヒカゲが、二人が起きたことを知らせに廊下に出ると、待ち構えていたリンドウと宰相が飛び込むように入ってきた。
 
「お水飲みたいって。」

 機嫌の悪いヤクモの体をせっせと拭きながらイズモが言うと、ヌイとトキが食事を持って入ってきた。

「昨日、結局一度しか食べていらっしゃらないから、きっとお腹が空いてると思いまして。」

 水をもらって飲むと、少しだけ機嫌を直したヤクモが、いそいそとベッドから降りてくる。汗でベタベタした服は脱いで、上半身が裸のままだった。
 宰相とリンドウは息を呑む。
 あばら骨の浮いた細い身体中に走る鞭の痕や、火傷の痕、コルセットの傷痕で、元の皮膚の色が分からないほどだった。

「ヤクモ様。服を着てからご飯ですよ。」

 テーブルに食事を並べながら、ヌイが声をかける。ふらふらと歩いてテーブルに着いたヤクモは、ふい、と横を向いて聞こえないふりをした。

「お風呂に入りたいんだよね。でも、あまりのんびりもしていられないから、後で。」

 イズモが言うと、ますますむっつりとしながら、椅子に勝手に座っている。
 ヤクモの替えの服は用意されていなかった。仕方なく、せめてもと清潔なバスタオルをヤクモの肩にかけるが、癇癪を起こしてぽいと投げ捨てた。
 並んだスープの皿を持ち上げてあおろうとするのを、何とか止める。

「それは、だーめ。」

 ひ、ひー、とヤクモの喉から微かな音が漏れた。机にスープ皿を置かせて、スプーンを握らせる。
 むっつりとしたままで、それでもスプーンでスープを食べ始めた。

「ヤクモ様の服をお借りできるとありがたいのですが。」

 部屋の中に飛び込みはしたが、そのまま立ち尽くしていた宰相とリンドウにトキの声がかかった。
 リンドウが慌てて手配をして、自分と同じ見習いの騎士服を運ばせる。
 皆と同じ服だったのが良かったのだろう。だいぶ大きめのその服を、ヤクモは大人しく身に付けた。
 傷が隠れたことにほっとして、宰相が話しかける。

「イズモ様にご挨拶申し上げます。」

 丁寧に膝を折り、国王へする最上級の礼を尽くした。

「お食事の横でお話することをお許し願えますか。」

 イズモは、パンを手にしながら嫌そうに眉をしかめた。それから、ヤクモの様子を見る。長い袖をまくってもらって、またスープを食べているヤクモの機嫌は直ってきているようだ。

「ヤクモの食事の邪魔だけはしないように。」
「は。」

 宰相は、カナメヅカとイズモとヤクモが囲む食卓の横で膝をついたまま、頭を下げる。

「私は、国王陛下の元でまつりごとをしております。ナカツカサ・モトと申します。その…封印のお話を。イズモ様がこちらにいらっしゃるということは、つまり……。」
「ああ。僕はもう封印を解いた。もうすぐ、来るよ。」
「その…何が?」
「ムラクモの使い魔。」
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