【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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61 雲や霞を食べて、裸で暮らすおつもりでしたか?

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 補佐官に呼ばれて、喉が乾いて執務室を出たのに、何も飲めずに戻った宰相を、カナメヅカの当主を名乗る男が、待っていた。

「初めてお目にかかります。カナメヅカ・ミカゲです。」

 ソファから立ち上がって挨拶をする男は、城の騎士の服を着ている。

「宰相を勤めております。ナカツカサ・モトと申します。」

 挨拶を返しながら、宰相は冷や汗を流していた。自分の今までの判断が、この長く続く天候不順と、つい先日までの国王の体調不良、そして塔の崩壊を招いていたことに、気付いたばかりだ。カナメヅカに、会いたくなかった。

「時間が惜しいので、用件だけを。ずっと報告書や嘆願書でも述べていたことですが、未払いのイズモ様の生活費とカナメヅカへの給金を支払って頂きたい。今すぐ。」
「その…すぐには出せない。予算の中にない金は、出すのに時間がかかる。」
「予算の中にない、とは?」
「無いのだ。もう、ずっと前から……。」
「これは異なことを。あなたは、給金もなく、イズモ様を働かせていたのですか?人は、金がないと食べることができずに死ぬのですが、ご存知ですか?」
「…………。」

 イズモ様が実在するとは思わなかった、とも言えず、宰相は黙りこむ。

「今、出せる王家の財産なり何なりお持ちください。伴侶の持参金もありませんでした。そちらもお願いします。まさか、それまで無いとは言いませんよね?」
「伴侶の持参金なら、リンドウ様が……。」
「ああ。あの、伴侶をかたる困ったお方ですか。お持ちだったなら、置いて帰ってくれたら良かったものを……。では、その方を呼んでお金を渡してください。」

 リンドウを呼んでもらうことと、何か飲み物を、と補佐官に注文して、宰相はソファに座った。

「今、イズモ様と伴侶様は……?」
「寝ておられます。」
「そ、うですか……。」

 リンドウは、すぐにやってきた。

「お呼びと伺った。」
「持参金をお渡しください。我々は、長年国を守って参りましたが、このところ、まともに給金が支払われておりません。イズモ様の生活費と給金も支払われておりません。」
「何だと?なんということだ!宰相、すぐにでも支払いを!」
「リンドウ様。予算に無い金は簡単には出せないのです。持参金を、とりあえずお渡ししたいのですが、どこにお持ちでしょうか?」
「持参金……。嫁入りのための?それなら、こんなには不要だと旅費だけもらって置いていった。私などのためにあのような大金を使うなら、国のために使って欲しいと思ったのだ。」

 ははっ、とミカゲが乾いた笑いをこぼした。

「あなたは、塔での生活費も持たずに来られていたのか。雲や霞を食べて、裸で暮らすおつもりでしたか?」

 リンドウは息を呑んだ。塔で暮らす。暮らすのだと、思っていなかった?いや、伴侶として暮らすつもりだった。どうやって?
 そうだ。どうやって?
 生まれてから今まで、食べ物は時間になれば出てきた。服はいくらでもあった。入りたい時に湯に浸かり、いつも部屋は清潔で。
 
「失礼します。」

 侍女が、紅茶を運んできた。ソファの前のテーブルに三つ置かれる。焼き菓子も添えられていた。
 宰相は、すぐに一杯飲み干し、おかわりを要求した。
 それを見たミカゲが、口を開く。

「この紅茶一杯すら、無料ただでは飲めますまい。」
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