【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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59 哀れむなど烏滸がましい

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 ノバラは、リンドウの手を借りて、昨日泊まった客室に戻っていた。

「ノバラ。」

 ハバキは、真っ青な顔でソファにもたれ掛かるノバラに詰め寄る。

「ハレルヤの、あの様子はどうしたことだ。」

 付き添っていたリンドウが間に入る。

「父う…国王陛下。母上は今…。」
「リンドウ。何故だ。何故、ハレルヤは、スープをスプーンで飲むことさえ覚束ないのだ。」
「…………。」

 スープをスプーンで飲むことさえ覚束ない。
 その言葉に、リンドウは唇を噛んでうつむいた。食べ物を届けていた。例えばパンを一つ。例えば水。コップに入れたスープ。サンドイッチ。そこまでが精一杯だった。それでも、良いことをしているつもりだった。なるべく頑張って届けていたはずだった。
 よく考えたら、数日に一度の食事だ。自分は毎日三食におやつも食べていたのに?スープ、サラダ、パンとメイン、デザート、ドリンク。食べきれなくて残しもした。私が届けていたのは、パン一つ。サンドイッチのみ?
 自分なりに、頑張っていたつもりだった。だが、どこか他人事だったのだ。真剣に考えていたら分かったはずだ。足りないと、気付けたはずだ。自分の食事の量を考えて、もっとたくさん、もっと何度も届ける努力をしたはずだ。
 野良犬や野良猫と同じ扱いだったのだ。彼は、弟なのに。同じ人間なのに。
 必死で受け取り、食べている音は聞こえていた。喉を潰されて、声が出せないなんて知らなかった。潰された喉が、食べにくいことも知らなかった。
 それらはすべて、言い訳に過ぎない。
 足りない、とハレルヤが言ってくれれば、もう少し頑張ったのか?分からない。すべては、もう取り返しのつかないこと。

「私が、渡した食べ物は、例えばパンを一つ。例えばサンドイッチ。コップに入れたスープ。スプーンを使えるようになるとは、思えません……。」
「ノバラは、食堂には呼んでいたのか。」
「私が食事中に会ったことはありません……。」
「だが、ハレルヤは先ほど、食堂でひどく怯えて錯乱した。ノバラに食堂で虐待を受けていたようだと、イズモと名乗るものが言っていた。」
「…………。」

 ノバラは、黙して動かない。

「私は、ハレルヤという名前も知らなかった。あの子は、ヤクモです。ようやく人として暮らしていたヤクモを、また、彼にとって恐ろしい場所へ連れ戻してしまった。それが正しいと。何も知らずに、何も聞かずに。戻る途中にも、彼への扱いのおかしさを感じながら、結局、ここまで……連れてきて…しまった……。」

 リンドウは、涙を堪えながら話した。自分に泣く権利はない。ヤクモを哀れむなど、そんな権利はないのだ。
 リンドウは、静かに決意する。

「国王陛下。イズモ様の代わりに、悪魔を封じましょう……。私と母上と、陛下のお力で。」
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