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57 お腹空いた
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キキョウが戻ってきた。
「食堂に移動して頂けますか?」
丁寧に頭を下げる。イズモは、ヤクモを抱いてベッドから降りた。
「イズモ様。ヤクモ様をお預かり致しましょうか?」
体力のあまりないイズモには、ヒカゲの申し出は有難かったが、ヤクモは今、ノバラに怯えていてイズモから離れられない。頑張るよ、と笑って歩き出した時だった。
「息子を下ろせ。」
国王ハバキが、部屋の出入り口で立ち塞がる。もちろん、護衛騎士の後ろで、だが。
「息子……?」
「ハレルヤのことだ。」
イズモは、しっかりと自分にしがみついているヤクモの顔を見た。きょとん、としている。まだまだ熱が高いので、目が潤んで辛そうだ。
「その名の者を、僕たちは知らない。」
「その、腕の中の子どもがハレルヤだ。この国の、世継ぎの王子。私の息子だ。」
ヤクモは、ちら、とハバキを見た。全く見覚えが無かった。呼ばれた名前にも、聞き覚えが無かった。
だから、首を横に振った。
はっきりと、振った。
俺はヤクモ。それ以外の名前は知らない。
「この子は、ヤクモ。僕の伴侶。本人も、そう言っている。」
ヤクモは、少し笑って頷いた。
俺はヤクモ。イズモ様の側にずっといるために生まれた。
「本人が、そう言っている、だと?父のことも、母のことも分からないのか?いや、ハレルヤは、何も言っていない。」
「聞いていなかったのか?ヤクモは、喉を潰されて話せない。音には出せないよ。」
「なら何故、本人が言っている、などと言える?」
イズモはヤクモを支えて、ハバキの正面に立たせた。
「ヤクモ。あの人を知っている?」
ヤクモの首は、はっきりと横に振られた。
「ハレルヤ、という名前に聞き覚えはある?」
もう一度、首が横に振られた。
「これで、満足かな?」
絶句するハバキに、イズモの柔らかい声が掛けられた。
「……母のことは?」
ようやくハバキが絞り出した声にも、ヤクモはしっかりと首を横に振った。夢では、それっぽい人を見たような、それとも、ただの願望かもしれない。今、自分の中で母と言われて浮かぶのは。
きょろ、と首を巡らせて、ヌイを見つける。側に居てくれる人。ご飯を作ってくれて、俺を大事にしてくれる人。
目の合ったヌイが、にこりと笑ってくれて、ヤクモもにこにこした。
居てくれた。イズモだけでなく、ヌイもミカゲも、ヒカゲもトキも。
もう、怯えることはない。
これも、言って大丈夫なのだろう。
お腹空いた!
「食堂に移動して頂けますか?」
丁寧に頭を下げる。イズモは、ヤクモを抱いてベッドから降りた。
「イズモ様。ヤクモ様をお預かり致しましょうか?」
体力のあまりないイズモには、ヒカゲの申し出は有難かったが、ヤクモは今、ノバラに怯えていてイズモから離れられない。頑張るよ、と笑って歩き出した時だった。
「息子を下ろせ。」
国王ハバキが、部屋の出入り口で立ち塞がる。もちろん、護衛騎士の後ろで、だが。
「息子……?」
「ハレルヤのことだ。」
イズモは、しっかりと自分にしがみついているヤクモの顔を見た。きょとん、としている。まだまだ熱が高いので、目が潤んで辛そうだ。
「その名の者を、僕たちは知らない。」
「その、腕の中の子どもがハレルヤだ。この国の、世継ぎの王子。私の息子だ。」
ヤクモは、ちら、とハバキを見た。全く見覚えが無かった。呼ばれた名前にも、聞き覚えが無かった。
だから、首を横に振った。
はっきりと、振った。
俺はヤクモ。それ以外の名前は知らない。
「この子は、ヤクモ。僕の伴侶。本人も、そう言っている。」
ヤクモは、少し笑って頷いた。
俺はヤクモ。イズモ様の側にずっといるために生まれた。
「本人が、そう言っている、だと?父のことも、母のことも分からないのか?いや、ハレルヤは、何も言っていない。」
「聞いていなかったのか?ヤクモは、喉を潰されて話せない。音には出せないよ。」
「なら何故、本人が言っている、などと言える?」
イズモはヤクモを支えて、ハバキの正面に立たせた。
「ヤクモ。あの人を知っている?」
ヤクモの首は、はっきりと横に振られた。
「ハレルヤ、という名前に聞き覚えはある?」
もう一度、首が横に振られた。
「これで、満足かな?」
絶句するハバキに、イズモの柔らかい声が掛けられた。
「……母のことは?」
ようやくハバキが絞り出した声にも、ヤクモはしっかりと首を横に振った。夢では、それっぽい人を見たような、それとも、ただの願望かもしれない。今、自分の中で母と言われて浮かぶのは。
きょろ、と首を巡らせて、ヌイを見つける。側に居てくれる人。ご飯を作ってくれて、俺を大事にしてくれる人。
目の合ったヌイが、にこりと笑ってくれて、ヤクモもにこにこした。
居てくれた。イズモだけでなく、ヌイもミカゲも、ヒカゲもトキも。
もう、怯えることはない。
これも、言って大丈夫なのだろう。
お腹空いた!
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