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55 怒り
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扉は、開いていた。そこへと続く廊下は水に濡れて、外から誰かが入ってきたことを物語っていた。
先行していたノバラを追い越して、ハバキとその護衛が部屋へと入る。
ベッドの上に見知らぬ男がいて、ハレルヤを抱きかかえていた。
「な…にをしている?ハレルヤを離せ。」
ハバキの声に護衛が反応して剣を構えた。
「お止めください!父上!」
「リンドウ。」
リンドウと、その護衛が飛び出す。他に、騎士の服を纏った男女が四人、侍女のキキョウがいた。
「なんだ?城に引き入れたのはお前か?」
「いえ。」
「陛下、であらせられますか。」
ハバキとリンドウが冷たい声でやり取りをしていると、壮年の男が声を上げた。ちらり、と視線を向けると頭を下げてくる。
「カナメヅカの当主、ミカゲにございます。」
「長男のヒカゲです。」
「妻のヌイと嫁のトキでございます。」
四人の男女は次々と名乗りを上げた。
「カナメヅカ、だと。」
名は知っている。塔の番人。決して塔から離れず、塔の御方を世話する一族。
「何故、ここに……。」
実在したのか、とさえ思いつつ、ハバキは呟いた。
「塔の御方の側が、我々の居るところでありますれば。」
「塔の御方の側……。」
ベッドの上を見る。こちらをちらりとも見ずに、抱いたハレルヤに笑いかけている男。
まさか……。
「イズモ様。ヤクモ様は、目覚められましたか?」
ミカゲが声をかけると、イズモ様と呼ばれた男が、嬉しそうにそちらを向いた。
「お腹空いたらしいよ。」
そう言いながら、愛おし気にハレルヤの口許に口づけを落とす。ふわり、と神力が流れた。
「それは、ようございました。」
ミカゲは、ほっとしたように笑い返すと、リンドウへとその顔を向けた。
「こちらの厨房をお借りすることはできますか?スープが、少し残っていたりはしないでしょうか。できれば、イズモ様も我々も食事がしたい。無理なら、町へ降りて宿を取り、そちらの食堂を利用致します。未払いの分の給金を頂けますでしょうか?」
「急いで手配しよう。キキョウ、頼めるか。」
キキョウは、黙って頭を下げて、部屋を出ようとした。
「待て。私を差し置いて、勝手な振る舞いは許さぬ。」
「キキョウ。構わぬ。イズモ様と伴侶の望みを叶えることが最優先である。」
リンドウは、止めようとしたハバキとキキョウの間に入って、ハバキを止める。男女差はあれど、三年床に伏していたハバキに、鍛えていたリンドウをはねかえす力は無かった。
娘に押さえ込まれるハバキを見て、ノバラが可笑しそうに笑う。
親子でのやり合いでは、護衛騎士も手が出せない。
「強いのね、リンドウ。」
ノバラが、楽しげに声を出した時だった。
怒りを含んだ神力が、ごお、と渦を巻く。神力を扱うことのできぬ者にも感じ取れるほどのものだった。
先行していたノバラを追い越して、ハバキとその護衛が部屋へと入る。
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「急いで手配しよう。キキョウ、頼めるか。」
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