53 / 83
53 ここにいたよ
しおりを挟む
ヤクモは、火に焼かれていた。死なない程度にじわじわと、内側から焼かれていく。
熱い。
熱い……。
痛みも苦しみも感じない世界にたどり着くのは、なかなか大変なことらしい、とヤクモは思った。
また、俺は苦しい現実へと戻ってきたようだ。
呼吸が苦しく、ひたすらに喉が渇いているのに水をもらえない。ほんの少し前まで当たり前のことだったのに、楽しい夢を見た後のヤクモには辛かった。
甘い蜜入りの水。
あれは、なんて美味しかったことだろう。
喉を潰された後は、何を食べても飲んでも、本当は唾を飲み込んでさえ痛かったのだ。
他に痛むところが多すぎて、大した痛みで無いからと気付かないふりをしてきたが、ダメージを少しずつ与えるには最適な方法だったのだろう。
唾なんてしょっちゅう飲み込むのだ。
滅多にきちんと貰えないとはいえ、食べ物も喉を通って入っていく。
痛みに躊躇しているうちに食べ物が下げられて食べられず、何度泣いたことか。
わざと酸味のあるものを渡されていたので、ずっとずっと痛いのだ。
そのうち、お腹が空きすぎて、血を吐きながらもとにかく食べられるものを飲み込むことに決めた頃に、王妃とメイドはヤクモの喉に興味を失ってくれて、少しはましになった。酸味のあるものを渡すことに飽きてくれた。
ヤクモはもう一度、蜜入りの水を思う。
初めて飲んだときは、喉をとろりと流れていくのでほとんど痛くなくて、本当に驚いたものだ。ずっと飲んでいたかった。甘いものを食べた記憶も薄れていて、すごくすごく薄めてあるのに、舌が痺れるほど美味しかった。
イズモはいつも必ず、食事の前に蜜入りの水を飲ませてくれて、食事を食べてもそんなに痛まなかった。きっと、何か薬の役割があったのだろう。イズモから口移しで飲ませてもらうのが、とても好きだった。
ああ、熱い。
喉が渇いた。
そんなことも感じない暗闇の中で眠ってしまいたいのに、額の辺りが冷やされては、うっすらと覚醒する。
ずっと、誰かが謝りながら、額を冷やしてくれている。その水を、口に欲しいと言いたいが、声が出るわけもなく、体も動きはしなかった。
「すまない。ハレルヤ。」
ああ。
食べ物をくれる人。ハレルヤって何か分からないけど、あなたがそんなに謝ることじゃない。
ひとつだけお願い、もう冷やさないで。辛いんだ。
また、暗闇に落ちられる、と思った時に、待ち望んでいたものが与えられた。
「ヤクモ、遅くなってすまない。」
その言葉と共に喉を通る水は蜜入りでは無かったけれど、そんなに痛みは感じなかった。もう、とにかく生き返る心地で飲んだ。美味しい。もっと。もっと。
ヤクモ、と呼ばれた。ヤクモは消えそうになっていた自分が、また像を結ぶのを感じた。イズモに抱かれている。触れた箇所がひんやりとして気持ちいい。
口に触れる唇が、気持ちいい。
イズモ。
イズモ。
俺はまだ、ここにいたよ。
熱い。
熱い……。
痛みも苦しみも感じない世界にたどり着くのは、なかなか大変なことらしい、とヤクモは思った。
また、俺は苦しい現実へと戻ってきたようだ。
呼吸が苦しく、ひたすらに喉が渇いているのに水をもらえない。ほんの少し前まで当たり前のことだったのに、楽しい夢を見た後のヤクモには辛かった。
甘い蜜入りの水。
あれは、なんて美味しかったことだろう。
喉を潰された後は、何を食べても飲んでも、本当は唾を飲み込んでさえ痛かったのだ。
他に痛むところが多すぎて、大した痛みで無いからと気付かないふりをしてきたが、ダメージを少しずつ与えるには最適な方法だったのだろう。
唾なんてしょっちゅう飲み込むのだ。
滅多にきちんと貰えないとはいえ、食べ物も喉を通って入っていく。
痛みに躊躇しているうちに食べ物が下げられて食べられず、何度泣いたことか。
わざと酸味のあるものを渡されていたので、ずっとずっと痛いのだ。
そのうち、お腹が空きすぎて、血を吐きながらもとにかく食べられるものを飲み込むことに決めた頃に、王妃とメイドはヤクモの喉に興味を失ってくれて、少しはましになった。酸味のあるものを渡すことに飽きてくれた。
ヤクモはもう一度、蜜入りの水を思う。
初めて飲んだときは、喉をとろりと流れていくのでほとんど痛くなくて、本当に驚いたものだ。ずっと飲んでいたかった。甘いものを食べた記憶も薄れていて、すごくすごく薄めてあるのに、舌が痺れるほど美味しかった。
イズモはいつも必ず、食事の前に蜜入りの水を飲ませてくれて、食事を食べてもそんなに痛まなかった。きっと、何か薬の役割があったのだろう。イズモから口移しで飲ませてもらうのが、とても好きだった。
ああ、熱い。
喉が渇いた。
そんなことも感じない暗闇の中で眠ってしまいたいのに、額の辺りが冷やされては、うっすらと覚醒する。
ずっと、誰かが謝りながら、額を冷やしてくれている。その水を、口に欲しいと言いたいが、声が出るわけもなく、体も動きはしなかった。
「すまない。ハレルヤ。」
ああ。
食べ物をくれる人。ハレルヤって何か分からないけど、あなたがそんなに謝ることじゃない。
ひとつだけお願い、もう冷やさないで。辛いんだ。
また、暗闇に落ちられる、と思った時に、待ち望んでいたものが与えられた。
「ヤクモ、遅くなってすまない。」
その言葉と共に喉を通る水は蜜入りでは無かったけれど、そんなに痛みは感じなかった。もう、とにかく生き返る心地で飲んだ。美味しい。もっと。もっと。
ヤクモ、と呼ばれた。ヤクモは消えそうになっていた自分が、また像を結ぶのを感じた。イズモに抱かれている。触れた箇所がひんやりとして気持ちいい。
口に触れる唇が、気持ちいい。
イズモ。
イズモ。
俺はまだ、ここにいたよ。
125
お気に入りに追加
755
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる