【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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54 私は私のやりたいことしかしない

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 城に、神力が広がるのを感じたのは、リンドウだけでは無かった。
 客間を一室整えさせて一晩を過ごしたノバラは、止む気配のない雨にうんざりしていた所だった。離宮へ帰るのも面倒な雨だから城に留まったが、やはり、食事も、布団の寝心地もしっくり来ない。着替えもない。離宮に取りに行かせた所で濡れてしまうのである。覚悟を決めて帰るか、と考えていた所に、かつて感じたことのない量の神力を感じた。
 離宮から連れてきた従順な護衛に、様子を見てくるよう頼もうとすると、部屋の扉が乱暴に開いた。

「ノバラ。貴様、何をした。」

 そこには、怒りに顔を歪めた国王ハバキが立っている。

「鍵は閉めてあったはずですが。」

 無表情に答えながら、では、この男では無いのか、と考える。そういえば、この男の神力は大した量ではなかった。私に、たやすく負ける程のもの……。となると。
 心当たりは一人だけだった。ノバラは敢えて、神力に触れさせぬように育て、使い方を教えもしなかったが、城に来てから学んだと言っていた。
 直系二人の血を引く娘。
 リンドウ。
 このように凄い力を持っていたのか、と驚くと同時に、何があったかは知らぬが、せっかくの力なら塔で使えば良いものを、と思う。そうでなければ、雨は止むまい。

「貴様では、無いのか……。」

 この部屋に、何の神力の残滓も感じなかったハバキが呟いたが、まるっきり気にせずに立ち上がった。そのまま、歩いて部屋を出ようとしたところで、声がかかる。

「待て。どこへ行く。」

 ノバラは冷たい目で、自分の計画に都合の良かった男を見つめた。神力もほどほどにあり、勉強も良くできて、婚約者を愛していた、真っ直ぐな気性の男。塔へと閉じ込められたくなくて、利用した。それは、いっそつまらないくらいに上手くいき、ノバラは王妃として悠々自適に過ごしている。
 リンドウが、ここからの人生を一緒に過ごしてくれないことと、ハバキの子でない息子が、王子でなくなったことは、残念だけれど。
 大した問題ではなかった。
 私は、私のやりたいことしかしない。
 これまでも、これからも。
 ノバラは心の中で呟いて、また歩き出す。
 後ろからハバキが付いてくる気配は感じていたが、知らん顔をして神力を感じる方へと歩いた。
 所々で、城の警備兵が座り込んでいる姿が見える。

「これは、一体……。」

 ハバキの呟きを聞きながら、侵入者だな、とノバラは思ったが、黙ってその部屋へ着いた。
 昨日、が寝かされていた部屋へ。
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