54 / 83
54 私は私のやりたいことしかしない
しおりを挟む
城に、神力が広がるのを感じたのは、リンドウだけでは無かった。
客間を一室整えさせて一晩を過ごしたノバラは、止む気配のない雨にうんざりしていた所だった。離宮へ帰るのも面倒な雨だから城に留まったが、やはり、食事も、布団の寝心地もしっくり来ない。着替えもない。離宮に取りに行かせた所で濡れてしまうのである。覚悟を決めて帰るか、と考えていた所に、かつて感じたことのない量の神力を感じた。
離宮から連れてきた従順な護衛に、様子を見てくるよう頼もうとすると、部屋の扉が乱暴に開いた。
「ノバラ。貴様、何をした。」
そこには、怒りに顔を歪めた国王ハバキが立っている。
「鍵は閉めてあったはずですが。」
無表情に答えながら、では、この男では無いのか、と考える。そういえば、この男の神力は大した量ではなかった。私に、たやすく負ける程のもの……。となると。
心当たりは一人だけだった。ノバラは敢えて、神力に触れさせぬように育て、使い方を教えもしなかったが、城に来てから学んだと言っていた。
直系二人の血を引く娘。
リンドウ。
このように凄い力を持っていたのか、と驚くと同時に、何があったかは知らぬが、せっかくの力なら塔で使えば良いものを、と思う。そうでなければ、雨は止むまい。
「貴様では、無いのか……。」
この部屋に、何の神力の残滓も感じなかったハバキが呟いたが、まるっきり気にせずに立ち上がった。そのまま、歩いて部屋を出ようとしたところで、声がかかる。
「待て。どこへ行く。」
ノバラは冷たい目で、自分の計画に都合の良かった男を見つめた。神力もほどほどにあり、勉強も良くできて、婚約者を愛していた、真っ直ぐな気性の男。塔へと閉じ込められたくなくて、利用した。それは、いっそつまらないくらいに上手くいき、ノバラは王妃として悠々自適に過ごしている。
リンドウが、ここからの人生を一緒に過ごしてくれないことと、ハバキの子でない息子が、王子でなくなったことは、残念だけれど。
大した問題ではなかった。
私は、私のやりたいことしかしない。
これまでも、これからも。
ノバラは心の中で呟いて、また歩き出す。
後ろからハバキが付いてくる気配は感じていたが、知らん顔をして神力を感じる方へと歩いた。
所々で、城の警備兵が座り込んでいる姿が見える。
「これは、一体……。」
ハバキの呟きを聞きながら、侵入者だな、とノバラは思ったが、黙ってその部屋へ着いた。
昨日、あれが寝かされていた部屋へ。
客間を一室整えさせて一晩を過ごしたノバラは、止む気配のない雨にうんざりしていた所だった。離宮へ帰るのも面倒な雨だから城に留まったが、やはり、食事も、布団の寝心地もしっくり来ない。着替えもない。離宮に取りに行かせた所で濡れてしまうのである。覚悟を決めて帰るか、と考えていた所に、かつて感じたことのない量の神力を感じた。
離宮から連れてきた従順な護衛に、様子を見てくるよう頼もうとすると、部屋の扉が乱暴に開いた。
「ノバラ。貴様、何をした。」
そこには、怒りに顔を歪めた国王ハバキが立っている。
「鍵は閉めてあったはずですが。」
無表情に答えながら、では、この男では無いのか、と考える。そういえば、この男の神力は大した量ではなかった。私に、たやすく負ける程のもの……。となると。
心当たりは一人だけだった。ノバラは敢えて、神力に触れさせぬように育て、使い方を教えもしなかったが、城に来てから学んだと言っていた。
直系二人の血を引く娘。
リンドウ。
このように凄い力を持っていたのか、と驚くと同時に、何があったかは知らぬが、せっかくの力なら塔で使えば良いものを、と思う。そうでなければ、雨は止むまい。
「貴様では、無いのか……。」
この部屋に、何の神力の残滓も感じなかったハバキが呟いたが、まるっきり気にせずに立ち上がった。そのまま、歩いて部屋を出ようとしたところで、声がかかる。
「待て。どこへ行く。」
ノバラは冷たい目で、自分の計画に都合の良かった男を見つめた。神力もほどほどにあり、勉強も良くできて、婚約者を愛していた、真っ直ぐな気性の男。塔へと閉じ込められたくなくて、利用した。それは、いっそつまらないくらいに上手くいき、ノバラは王妃として悠々自適に過ごしている。
リンドウが、ここからの人生を一緒に過ごしてくれないことと、ハバキの子でない息子が、王子でなくなったことは、残念だけれど。
大した問題ではなかった。
私は、私のやりたいことしかしない。
これまでも、これからも。
ノバラは心の中で呟いて、また歩き出す。
後ろからハバキが付いてくる気配は感じていたが、知らん顔をして神力を感じる方へと歩いた。
所々で、城の警備兵が座り込んでいる姿が見える。
「これは、一体……。」
ハバキの呟きを聞きながら、侵入者だな、とノバラは思ったが、黙ってその部屋へ着いた。
昨日、あれが寝かされていた部屋へ。
122
お気に入りに追加
773
あなたにおすすめの小説

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる