【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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51 カナメヅカ

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 カナメヅカが城へと上がったのは、何百年ぶりであっただろうか。彼らは、決して塔から出ることのできない塔の御方のお世話と、塔の回りの警備をしなくてはならないので、あの町から離れられないままに時を過ごしていたのだ。
 報告書は、丁寧に書かれて城へと届けられていたが、姿の見えない彼らの実在すら疑うものが出ていた。
 給金をどんどん減らされても、お役目の位を下げられても、彼らが町を、塔の側を離れることはなかった。それはひとえに、塔の御方のため。ひいては国のため。
 そんな彼らが、この大雨の中を城へとやってきた……。

「…………。」
 
 ずぶ濡れで馬車を駆ってきたままに城の入り口にいる。五人の男女は、緊張感に溢れてそこに立っていた。
 城の者は、その紋章を見て門前払いすることもできず城へは入れたが、誰がどのように応対したらよいものか分からずにいた。

「お分かりになりますか?」
 
 ミカゲが、妻と息子夫婦とで囲んでいたイズモへ尋ねる。
 イズモは軽く頷いた。
 ヤクモの神力は、まだ微かに感じ取れる。まだ、今なら。

「参りましょう。」
 
 五人は、動き出した。

「待て。まだ、取り次ぎが済んでおらぬ。」
「黙れ、無礼者。このように濡れたまま放置とは何事か。」
 
 警備兵が立ち塞がろうとするのへ、一喝しながらも歩みは止まらない。
 ミカゲは、せめてイズモの濡れた体だけでも拭いておきたかったが、今はそれどころでは無かった。ヤクモが奪われてから、一昼夜経っている。しかも、イズモが塔を出るほどの緊急事態だ。一刻も早くヤクモを取り戻さなければ!
 
「止まらねば、切る。」

 ついに警備兵の剣が抜かれた時に、イズモは神力を声に乗せて飛ばした。

「下がれ。」

 五人から目に見える範囲の全ての人間が、がくりとその場に膝をつく。
 それは異様な光景であったが、カナメヅカの面々は気にせず進んだ。ミカゲ達にとって、もうこの国のことはどうでもよかった。
 大切なのはイズモ様であり、その伴侶のヤクモ様である。
 塔を出たイズモから、ヤクモが連れ去られたと聞いた時、カナメヅカ家の四人は、その事を確かめあった。
 全員の心が決まってしまえば、後の行動は容易い。塔のことも、封印から解き放たれるであろうのことも、どうでもよいことだった。
 やることは、ひとつ。
 ヤクモ様を一刻も早く取り戻す!



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