【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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 ハレルヤを連れ帰りました。
 その報告を聞いた国王は、すぐに客間へと足を向けた。
 医者が、ベッドで寝ている子どもの服を脱がして診察している。

「これが……?」

 身体中に広がる、折檻の痕。鞭の痕。ひきつれ、えぐれ、不自然に盛り上がる皮膚。肋の浮いた折れそうに細い体。
 医者は、恐る恐る体を確かめて服を元に戻した。ハレルヤと報告された子どもは、目も開かず、なされるがまま、赤い顔で荒い呼吸を繰り返すばかりだった。

「これが、ハレルヤ……?」

 リンドウは黙って頷く。他に誰も、反応はしなかった。

「は。馬鹿な。ハレルヤは十四歳のはずだ。これは、どう見てもその年齢に達していない。」
「塔の中で、塔の御方と神力を練っていました。そんなことができるのは、ムラクモ様の血筋の者のみ。」
「ハレルヤが、ハレルヤが戻って来たと、お聞きしました……!」

 シラギクが客間へ飛び込んできた。美貌も損なうほどにやつれて、ふらふらとしていた。

「シラギク。」

 国王は、妃を冷めた目で見つめる。国王が目覚めてから、二人の関係はよろしくなかった。ハレルヤを失っていたからだ。

「これが、ハレルヤなのか?」

 シラギクは、ベッドにふらふらと近寄った。荒い呼吸を繰り返す子どもが寝ている。

「…………。」

 分からなかった。
 その顔を見ても、それが我が子かどうか分からなかった。
 せめて、目を開けていれば……。いや……。ハレルヤは……。

「シラギク。ハレルヤなのかと聞いている。」

 苛立つ国王ハバキの声を聞いても、答えることはできない。これが、ハレルヤ?小さすぎないだろうか。

「リンドウ。お前は離宮にいたから知っている、ということか。」
「いえ。私は会ったことはありません。」
「誰なら、分かるのか。」

 誰も、分からない。
 この国の王子の顔を、誰も知らない。
 
「この傷だらけの子どもがハレルヤだと、お前だけが言っている。」
「顔は分からない。けれど、この子は離宮にいました。母が、感染症の妹が住んでいると言っていた部屋に。」
「母……!そうか。ノバラだ。ノバラを連れてこい。」

 外の雨の音と、子どもの荒い呼吸だけが響く部屋に、王妃ノバラはやってきた。のんびりと歩いて。後ろに騎士を二人従えて。

「ノバラ。」

 国王ハバキが、憎々し気にその名を口にする。ノバラは、手にしていた扇子を広げて、口元を隠した。

「十六年ぶりでございますね、陛下。」
「どうでもいい。この子どもは、ハレルヤか。」

 ノバラは、ベッドに近寄りもせずに、そちらをちらりと見る。

「ハレルヤとは?」
「我が子の名前だ!お前が離宮へ連れ去った、我が子の。」
の名前など、聞いたこともありませぬ。」

 淡々と、ノバラは言った。

「な……に…?」
「ご用件は、以上でございますか?」
「お前、お前が、ハレルヤをこれほど虐げたのか!」

 くすり、とノバラは笑った。口元を上品に隠したまま。

「それは、ハレルヤと言うのですね。いいえ、私は何もしておりませんよ。」
「この子どもは、身体中に酷い傷痕がある。覚えは?」
「それの躾を任されたので、躾は致しました。私はただ、指導したのみ。手を上げるなんて、しておりません、私は。」
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