【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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45 夢の終わり

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 ヤクモは、馬車に揺られていることに気付いて、パニックを起こした。
 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。
 だって、昨日は普通にイズモの腕の中で……。
 夕食前に変な来客があったが、ヌイが追い出してくれたし、その後はいつも通りだった。皆で夕食を食べて、お風呂に入って、イズモと寝た。寝たんだ……。
 パニックを起こして、暴れたところを押さえられて抱きつかれ、あまりの気持ち悪さに、込み上げてきたものをその場に吐いた。
 抱いていた手が弛んで、吐瀉物の上に落ちる。
 ひどい臭いに、更に気持ち悪くなり、胃の中のものをすべて吐いてもまだ、えずきが治まらなかった。
 何があった?
 涙を流してえずきながら考える。
 朝。
 そう、まだ日も昇らない時間に、こいつらは寝室に忍び込んで……。
 イズモは、イズモは無事だろうか。
 馬車が止まった。
 汚い持ち物を持つようにぶら下げて持たれ、外に置かれる。吐きすぎて体に力が入らなかった。
 呆然としていると、冷たい川の水を頭からかけられる。あまりの冷たさに芯から冷えて、体が勝手にがたがたと震え出した。
 ああ、そうか。
 すとん、とその考えは降りてきた。
 
 今までの、何もかもが。
 イズモ様も、ミカゲとヌイも、ヒカゲとトキも。
 死ぬ前に、神様が俺にくれた幻の家族。
 温かい美味しい食事を食べたいと願った。
 大切にしてくれる人に抱きしめて欲しかった。
 お風呂に入りたかった。
 お菓子を食べたかった。
 家族で暮らしてみたかった。
 全部、全部。
 俺の願い。
 死にたいってのが一番の願いだと思っていたけれど、きっと違ったんだ。
 こんなに欲張りな願いを全て、神様は叶えてくれたんだ。
 すごいな。ひとつ叶えてもらっても幸せなのに、あんなにたくさん?
 やっぱり、俺が不幸すぎたなって神様も反省したんだろう。だから、いっぱい叶えてくれたんだなあ。
 そして、夢の時間は終わって、俺は目を覚ましてしまった。
 意地悪だなあ、神様。夢を見たまま、死なせてくれたら良かったのに。
 寒いな、と思いながらヤクモは目を閉じた。戻って来てしまった現実は、見たくない。せめて、この程度で済んでいるうちに、死なせて。

「ハレルヤ。」

 不意に、柔らかく温かいものが、俺の冷えた体を包む。

「私の声が分かるか。ハレルヤ。すまない。救うのがこんなにも遅くなって、すまない……。」

 目を閉じたら、ほら、食べ物をくれたあの子の声がする。
 ありがとう、神様……。
 さよなら。
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