41 / 83
41 無礼な来客
しおりを挟む
どうやら、トキとヤクモのお菓子作りは上手くいったようである。一通りの作業がすんで、トキが洗った調理器具をヤクモが拭き終わり、満足気に椅子に座っている。ヌイはヤクモの目の前に果実水を置いた。
ぱっと顔を輝かせたヤクモが、こくこくと飲む。
「お疲れでしょう?少し休んでいかれますか?」
それとなく聞いたヌイの言葉には、ヤクモはすぐさま首を横に振った。
「ヤクモ様、プリンは少し冷やさないといけないので、すぐに帰るなら、置いていってくださいね。後でまた、お届けします。」
トキの言葉に、え?と驚いた顔をして悩んでいる。すぐにでも、持ち帰りたかったのだろう。
果実水の横に、焼き菓子を置く。かりかりとしたクッキーも、ヤクモのお気に入りだった。ぱっと一つ手に取ってから、口にやらずに悩んでいる。
食べ物と思えば、それが何かを確かめもせずに食べてしまうようなヤクモには、珍しいことだった。
散々悩んだ末に、クッキーを皿に置いて立ち上がる。
「ヤクモ様?」
ヤクモの口がぱくぱくと動く。何かを伝えようとしているのだろう。ヌイとトキが分からず首を傾げていると、出入り口を指差した。
「帰られるのですか?」
とヌイが言うと、ヤクモは、うんうんと頷いた。ヌイとしては、もう少し居てほしい。医者が来るにはまだ早かった。
トキは、クッキーを袋に詰めている。医者の件を話していなかったから、ヤクモの手土産にしようと思っているのだろう。
ヤクモはもう、台所の出入り口へ向かっていた。
その時、乱暴に玄関の扉が叩かれる音がした。
「ここが、悪魔の塔の管理人の屋敷か!開けろ!」
大きな声も聞こえて、びくり、と三人で身を震わせる。トキは、咄嗟にヤクモを抱きしめた。
ヌイは、ここから出ないようにと二人に言い含めて玄関へ向かう。
「どちらさまでしょう?」
警戒しながら扉を開けると、城の直属の騎士団の服を来た騎士が三人、立っていた。
「探し人である。十三、四歳の少年がひとり、塔へと送られておらぬか。」
「いえ。存じません。」
ヌイは言った。ヤクモは、どう見てももっと小さい。十三、四歳の少年なんて知らない。
「王の探し人だ。嘘をつくと重罪だぞ。」
「はあ。王様の……。」
「なんと、役に立たぬ。ただ塔を眺めていれば良いとは、給料泥棒との話はまことであったか。」
「な、何をおっしゃいます。私たちカナメヅカは、塔の御方のお世話が役目。給料をもらわねば、塔の御方の食事も出せません!」
「は。塔の御方とやらがいない間は、塔を眺めているだけであろう。」
「塔の御方がいなくなることなどあり得ない。あの方は、塔から出られないのですから。」
「悪魔に食事を運んでいるのか?馬鹿なことを。飢え死にさせてやれば良いものを。」
ヌイは、唖然とした。何を言っている?今、この国では、イズモ様のことを何と教えているのか……。
「塔の御方への敬意が無ければ、この国はすぐに滅ぶ。敬意を払えないなら、この町から出ていけ!」
「無礼者!」
騎士の一人が手を振り上げたところで、ちょうど外から帰ってきたミカゲが、その腕を握って止めた。
「無礼はそちらだ。我々カナメヅカの家格の高さを調べてから、出直してこい。」
ミカゲに完全に押さえ込まれ、本来の職務を思い出した騎士が舌打ちしながら帰っていってから、ミカゲが言った。
「町にも騎士がいて、十三、四歳の少年が塔へと送られていないか、と聞いて回っている。」
医者を呼びに行ったミカゲは、町のなかに、普段見慣れぬ騎士団服の騎士を幾人か見たという。
「塔へ送られた少年と言うならヤクモ様だけれど、十三、四歳なら違うわね。」
「ああ。医者はまた今度にしよう。ヤクモ様を塔へ戻した方がいい。」
ぱっと顔を輝かせたヤクモが、こくこくと飲む。
「お疲れでしょう?少し休んでいかれますか?」
それとなく聞いたヌイの言葉には、ヤクモはすぐさま首を横に振った。
「ヤクモ様、プリンは少し冷やさないといけないので、すぐに帰るなら、置いていってくださいね。後でまた、お届けします。」
トキの言葉に、え?と驚いた顔をして悩んでいる。すぐにでも、持ち帰りたかったのだろう。
果実水の横に、焼き菓子を置く。かりかりとしたクッキーも、ヤクモのお気に入りだった。ぱっと一つ手に取ってから、口にやらずに悩んでいる。
食べ物と思えば、それが何かを確かめもせずに食べてしまうようなヤクモには、珍しいことだった。
散々悩んだ末に、クッキーを皿に置いて立ち上がる。
「ヤクモ様?」
ヤクモの口がぱくぱくと動く。何かを伝えようとしているのだろう。ヌイとトキが分からず首を傾げていると、出入り口を指差した。
「帰られるのですか?」
とヌイが言うと、ヤクモは、うんうんと頷いた。ヌイとしては、もう少し居てほしい。医者が来るにはまだ早かった。
トキは、クッキーを袋に詰めている。医者の件を話していなかったから、ヤクモの手土産にしようと思っているのだろう。
ヤクモはもう、台所の出入り口へ向かっていた。
その時、乱暴に玄関の扉が叩かれる音がした。
「ここが、悪魔の塔の管理人の屋敷か!開けろ!」
大きな声も聞こえて、びくり、と三人で身を震わせる。トキは、咄嗟にヤクモを抱きしめた。
ヌイは、ここから出ないようにと二人に言い含めて玄関へ向かう。
「どちらさまでしょう?」
警戒しながら扉を開けると、城の直属の騎士団の服を来た騎士が三人、立っていた。
「探し人である。十三、四歳の少年がひとり、塔へと送られておらぬか。」
「いえ。存じません。」
ヌイは言った。ヤクモは、どう見てももっと小さい。十三、四歳の少年なんて知らない。
「王の探し人だ。嘘をつくと重罪だぞ。」
「はあ。王様の……。」
「なんと、役に立たぬ。ただ塔を眺めていれば良いとは、給料泥棒との話はまことであったか。」
「な、何をおっしゃいます。私たちカナメヅカは、塔の御方のお世話が役目。給料をもらわねば、塔の御方の食事も出せません!」
「は。塔の御方とやらがいない間は、塔を眺めているだけであろう。」
「塔の御方がいなくなることなどあり得ない。あの方は、塔から出られないのですから。」
「悪魔に食事を運んでいるのか?馬鹿なことを。飢え死にさせてやれば良いものを。」
ヌイは、唖然とした。何を言っている?今、この国では、イズモ様のことを何と教えているのか……。
「塔の御方への敬意が無ければ、この国はすぐに滅ぶ。敬意を払えないなら、この町から出ていけ!」
「無礼者!」
騎士の一人が手を振り上げたところで、ちょうど外から帰ってきたミカゲが、その腕を握って止めた。
「無礼はそちらだ。我々カナメヅカの家格の高さを調べてから、出直してこい。」
ミカゲに完全に押さえ込まれ、本来の職務を思い出した騎士が舌打ちしながら帰っていってから、ミカゲが言った。
「町にも騎士がいて、十三、四歳の少年が塔へと送られていないか、と聞いて回っている。」
医者を呼びに行ったミカゲは、町のなかに、普段見慣れぬ騎士団服の騎士を幾人か見たという。
「塔へ送られた少年と言うならヤクモ様だけれど、十三、四歳なら違うわね。」
「ああ。医者はまた今度にしよう。ヤクモ様を塔へ戻した方がいい。」
120
お気に入りに追加
773
あなたにおすすめの小説

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である


怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる