【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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41 無礼な来客

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 どうやら、トキとヤクモのお菓子作りは上手くいったようである。一通りの作業がすんで、トキが洗った調理器具をヤクモが拭き終わり、満足気に椅子に座っている。ヌイはヤクモの目の前に果実水を置いた。
 ぱっと顔を輝かせたヤクモが、こくこくと飲む。

「お疲れでしょう?少し休んでいかれますか?」

 それとなく聞いたヌイの言葉には、ヤクモはすぐさま首を横に振った。

「ヤクモ様、プリンは少し冷やさないといけないので、すぐに帰るなら、置いていってくださいね。後でまた、お届けします。」

 トキの言葉に、え?と驚いた顔をして悩んでいる。すぐにでも、持ち帰りたかったのだろう。
 果実水の横に、焼き菓子を置く。かりかりとしたクッキーも、ヤクモのお気に入りだった。ぱっと一つ手に取ってから、口にやらずに悩んでいる。
 食べ物と思えば、それが何かを確かめもせずに食べてしまうようなヤクモには、珍しいことだった。
 散々悩んだ末に、クッキーを皿に置いて立ち上がる。
 
「ヤクモ様?」

 ヤクモの口がぱくぱくと動く。何かを伝えようとしているのだろう。ヌイとトキが分からず首を傾げていると、出入り口を指差した。

「帰られるのですか?」

 とヌイが言うと、ヤクモは、うんうんと頷いた。ヌイとしては、もう少し居てほしい。医者が来るにはまだ早かった。
 トキは、クッキーを袋に詰めている。医者の件を話していなかったから、ヤクモの手土産にしようと思っているのだろう。
 ヤクモはもう、台所の出入り口へ向かっていた。
 その時、乱暴に玄関の扉が叩かれる音がした。

「ここが、悪魔の塔の管理人の屋敷か!開けろ!」

 大きな声も聞こえて、びくり、と三人で身を震わせる。トキは、咄嗟にヤクモを抱きしめた。
 ヌイは、ここから出ないようにと二人に言い含めて玄関へ向かう。

「どちらさまでしょう?」

 警戒しながら扉を開けると、城の直属の騎士団の服を来た騎士が三人、立っていた。

「探し人である。十三、四歳の少年がひとり、塔へと送られておらぬか。」
「いえ。存じません。」

 ヌイは言った。ヤクモは、どう見てももっと小さい。十三、四歳の少年なんて知らない。

「王の探し人だ。嘘をつくと重罪だぞ。」
「はあ。王様の……。」 
「なんと、役に立たぬ。ただ塔を眺めていれば良いとは、給料泥棒との話はまことであったか。」
「な、何をおっしゃいます。私たちカナメヅカは、塔の御方のお世話が役目。給料をもらわねば、塔の御方の食事も出せません!」
「は。塔の御方とやらがいない間は、塔を眺めているだけであろう。」
「塔の御方がいなくなることなどあり得ない。あの方は、塔から出られないのですから。」
「悪魔に食事を運んでいるのか?馬鹿なことを。飢え死にさせてやれば良いものを。」

 ヌイは、唖然とした。何を言っている?今、この国では、イズモ様のことを何と教えているのか……。

「塔の御方への敬意が無ければ、この国はすぐに滅ぶ。敬意を払えないなら、この町から出ていけ!」
「無礼者!」

 騎士の一人が手を振り上げたところで、ちょうど外から帰ってきたミカゲが、その腕を握って止めた。

「無礼はそちらだ。我々カナメヅカの家格の高さを調べてから、出直してこい。」

 ミカゲに完全に押さえ込まれ、本来の職務を思い出した騎士が舌打ちしながら帰っていってから、ミカゲが言った。

「町にも騎士がいて、十三、四歳の少年が塔へと送られていないか、と聞いて回っている。」

 医者を呼びに行ったミカゲは、町のなかに、普段見慣れぬ騎士団服の騎士を幾人か見たという。

「塔へ送られた少年と言うならヤクモ様だけれど、十三、四歳なら違うわね。」
「ああ。医者はまた今度にしよう。ヤクモ様を塔へ戻した方がいい。」
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