40 / 83
40 お料理をしよう
しおりを挟む
「まああ。ヤクモ様。いらっしゃい!」
ヌイの明るい声が響いた。
カナメヅカの家は、何度か改築しているが、とても古くて重厚な作りである。昔は、塔へと赴く姫君のお付きで来たまま留まった侍女や従者、護衛をもてなしたりしていたので、台所も、食堂も、客間も、一般的なものより広めだった。
古いがまだ使える大きめの調理器具が様々に並んでいる。トキと手を繋いだまま、ヤクモは台所の中までやって来た。ぽけっとした顔をしている。
色々なものが、珍しいのだろう。
「よくいらっしゃいましたねえ。まあ、まあ、歩いて来られたのですね。お疲れではありませんか。」
ヌイやトキが歩いて十分ほどの距離だが、足元の覚束ないヤクモは、倍ほどの時間をかけて歩いてきた。塔のある場所は、少し小高い丘になっているので、下り坂を歩くのは大変だっただろう。塔へ来る前も、体の様子を見るに、そんなに動けていたとは思えない。
ヌイは、ヤクモに椅子を進めて目の前に果実水を置いた。ヤクモは素直に椅子に腰かけると、背もたれに体を預けて、ふーと息を吐いている。胸の辺りに手をやって、少し眉をしかめた。それから、果実水を手に取って、まじまじと眺めている。
「美味しいですよ。」
トキが、ヤクモに話しかけながら隣の椅子に腰かけるのを見て、ヌイはミカゲに近寄った。
「よく出てこられたね。」
「トキが上手くやってくれたようだ。」
「いいお嫁さんが来てくれて良かった。あなた、お医者様を呼びましょう。」
「医者に怯えないだろうか?」
「さっき見たでしょう?胸を押さえていらっしゃった。歩き方も何だか覚束ないし。」
「ああ。長い道のりだったよ。下り坂は、踏ん張りが効かないと危ないのだな。」
「ヤクモ様が嫌がられても、診てもらいます。このままお料理もされるのなら、疲れて寝るかもしれないし、呼んでおきましょう。」
「そうだな。とりあえず、声をかけてくる。外来の診察時間が終わってからで構わないから来てほしい、と言っておくよ。」
こそこそと話して、ミカゲは出ていった。
ヤクモは、果実水を一口飲んで気に入ったらしく、ぱっと顔を輝かせると、一息に飲み干した。
「気に入りましたか?」
ヌイが声をかけると、うんうんと頷いている。
「では、作りますか。」
トキが立ち上がると、ヤクモも張り切って立ち上がった。
手を洗って、トキがボウルに卵を割っていく。泡立て器を持ったヤクモが、恐る恐るかき混ぜ始めた。
「もっと、もっと。」
トキが楽しげに声をかけている。
ヌイは幸せな気持ちで、その様子を見守っていた。
ヌイの明るい声が響いた。
カナメヅカの家は、何度か改築しているが、とても古くて重厚な作りである。昔は、塔へと赴く姫君のお付きで来たまま留まった侍女や従者、護衛をもてなしたりしていたので、台所も、食堂も、客間も、一般的なものより広めだった。
古いがまだ使える大きめの調理器具が様々に並んでいる。トキと手を繋いだまま、ヤクモは台所の中までやって来た。ぽけっとした顔をしている。
色々なものが、珍しいのだろう。
「よくいらっしゃいましたねえ。まあ、まあ、歩いて来られたのですね。お疲れではありませんか。」
ヌイやトキが歩いて十分ほどの距離だが、足元の覚束ないヤクモは、倍ほどの時間をかけて歩いてきた。塔のある場所は、少し小高い丘になっているので、下り坂を歩くのは大変だっただろう。塔へ来る前も、体の様子を見るに、そんなに動けていたとは思えない。
ヌイは、ヤクモに椅子を進めて目の前に果実水を置いた。ヤクモは素直に椅子に腰かけると、背もたれに体を預けて、ふーと息を吐いている。胸の辺りに手をやって、少し眉をしかめた。それから、果実水を手に取って、まじまじと眺めている。
「美味しいですよ。」
トキが、ヤクモに話しかけながら隣の椅子に腰かけるのを見て、ヌイはミカゲに近寄った。
「よく出てこられたね。」
「トキが上手くやってくれたようだ。」
「いいお嫁さんが来てくれて良かった。あなた、お医者様を呼びましょう。」
「医者に怯えないだろうか?」
「さっき見たでしょう?胸を押さえていらっしゃった。歩き方も何だか覚束ないし。」
「ああ。長い道のりだったよ。下り坂は、踏ん張りが効かないと危ないのだな。」
「ヤクモ様が嫌がられても、診てもらいます。このままお料理もされるのなら、疲れて寝るかもしれないし、呼んでおきましょう。」
「そうだな。とりあえず、声をかけてくる。外来の診察時間が終わってからで構わないから来てほしい、と言っておくよ。」
こそこそと話して、ミカゲは出ていった。
ヤクモは、果実水を一口飲んで気に入ったらしく、ぱっと顔を輝かせると、一息に飲み干した。
「気に入りましたか?」
ヌイが声をかけると、うんうんと頷いている。
「では、作りますか。」
トキが立ち上がると、ヤクモも張り切って立ち上がった。
手を洗って、トキがボウルに卵を割っていく。泡立て器を持ったヤクモが、恐る恐るかき混ぜ始めた。
「もっと、もっと。」
トキが楽しげに声をかけている。
ヌイは幸せな気持ちで、その様子を見守っていた。
応援ありがとうございます!
28
お気に入りに追加
679
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる