【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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37 どうか無事でいて

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 余程の用事なのだろう。シラギクはしつこかった。翌日も朝早くからやって来た。だいぶ回復したリンドウは、お通ししてくれ、と侍女頭キキョウに伝えた。
 嫌そうな表情を隠しもしないキキョウが面白い。たった二日ほどの付き合いだが、なるべく感情を表に出さないことを訓練された人なのだな、という印象だったのに。

「嫌そうだな。」

 くっくっ、と笑いながらリンドウは言った。

「いいえ。」

 そう言って、キキョウはすまし顔を取り戻す。理由を聞いてみたかったが、すぐにシラギクが案内されてきた。
 
「リンドウ…様。」

 部屋に入ったシラギクは、寝間着でベッドにいるリンドウに戸惑っていた。まさか本当に、仮病だと思っていたのだろうか。それとも、側妃である自分が訪ねて来たのだから、無理をしてでもドレスを着てソファにいるとでも思っていたのか。
 
「このような姿で申し訳ありません。昨日まで、意識もはっきりとしていなかったものですから。」

 リンドウは、淡々と告げる。一応、寝た姿勢ではなく、ベッドに座った体勢である。

「あ、あの、ごめんなさい。その、どうしてもお聞きしたいことがあって……。」
「ええ。どうぞ。」

 あまりにおどおどとされると、いじめているような気分になる。

「その、リンドウ様は、離宮にお暮らしでしたよね…。私の、息子は、元気でいましたでしょうか?その、ノバラ様、そう、ノバラ様にお預けして、離宮に……。」
「息子?私の弟、ということですか?」
「ええ。ええ。そうです。共に、暮らしていらっしゃった…?」
「いえ。覚えがありませんね。私はいつも、一人で勉強して、一人で騎士団の鍛練に出掛けておりました。食事も、母と二人でした。もし共にいたら、楽しかったでしょうに。」

 シラギクは、ひぃっと喉を引きつらせた。部屋に入った後、ソファも進めておらず立ったままだったので、倒れそうになっていた。

「いない……?そんな、そんな。では、ハレルヤは、ハレルヤはどこに…。」
「ハレルヤ?」
「ええ、ええ。離宮に。そう、ノバラ様が離宮でお育てくださると連れて……。」
「母上が離宮に?いや、紹介されたことも、見たこともないな。」
「いや。いやあぁぁ!」

 シラギクは、叫び声を上げてうずくまった。リンドウは、軽く眉をしかめてその様子を見やる。
 弟。ハレルヤ。
 そう聞いて浮かぶのは、あの部屋の。
 食べ物を渡しに通った。
 監視の目を盗んで、行けるだけ行こうと頑張ったのは、何故だったのか。はじめは、母や使用人たちに逆らうのが楽しかったのかもしれない。行くな、駄目だと言われたらやりたくなる、子ども特有の。リンドウは、閉じ込められて辟易としていたから。
 はじめのうちは、ハレルヤと話をしていた?だから、食べ物を貰えていないことを、知ったのだ。どんなに周りが妹だと言っても、男だと知っていたのだ。
 いつから、口もきけないようになった?苦しそうな呼吸を思い出す。
 最後に見た狭く汚い部屋。こびりついた赤黒いあれは、血の跡……?
 母上は、女と偽ってハレルヤを塔に送った?空には晴れ間が広がって、国王は体調を戻した。ハレルヤが、私の代わりに……。
 リンドウは、きゅっと唇を噛みしめる。
 一刻も早く、体調を整えて救いに行かなくては。
 私こそがイズモ様の花嫁。
 ハレルヤ、どうか私が行くまで無事でいてくれ。
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