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36 くつろぎの客間
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部屋の外が騒がしくなったのは、夢中で教書を読んでいたリンドウが流石に疲れて、一度休もうかと思った頃である。
「側妃さま。リンドウ様は体調を崩しておいでです。昨日も、会えないと申し上げたでしょう?」
「目を覚ましたら、会わせてほしいの。まだ、寝ているの?もう四日目よ。それは本当なの?」
「我々が嘘を吐いていると?何のために?」
侍女頭の厳しい声がした。不敬とも取られかねない物言いは、いつも冷静な彼女には珍しい。
「いえ……。そういうわけではないの。ごめんなさい……。」
気弱な声が答える。これが、側妃の声なのだろう、とリンドウは思った。ぼんやりとベッドに寝転んで、どうしたものかと考える。
リンドウは、側妃シラギクと話したことは無かった。顔を合わせた覚えもほとんど無い。父が愛する妃。つまり、父は正妃である母を愛していないということなのだろう。母も、父が体調を崩した途端に、リンドウが住む離宮へとやって来た。リンドウは嬉しかったが、よく考えると、父を見捨てた、または、監視を外れて逃げ出した、とも取れる。その存在が母を離宮へ追いやったのなら、そんな人と話すことなど何も無いな……。
扉がノックされ、どうぞ、と返事をすると侍女頭が入ってきた。
「すみません。聞こえておりましたか。」
「起きていたから、構わない。」
「ご無理はなさりませぬよう。」
「ああ。何だかとても、のんびりさせてもらっているよ。不思議だな……。」
「それは、ようございました。」
侍女頭は、まるで一介の侍女のように、リンドウの側で世話を焼いてくれている。侍女頭としての仕事を補佐の者に少しずつ渡して、まるでリンドウの専属侍女のようであった。
世話を焼かれることに慣れていないらしいリンドウは、割りと何でも、自分でしてしまおうとする。体調の悪いこのような時でも、水差しを取ってほしいなどという要求をせずに、自分でベッドから下りてしまうのだ。ふらついて、見ている方が心配でたまらない。このような者を、その辺の侍女に任せる訳にはいかなかった。はじめの、風呂で倒れていた時も、手伝いはいらない、と言われた若い侍女が部屋でただ立って待っていたのだ。
鬱陶しがられても、こちらから世話を焼いていくくらいでないと、体調はなかなか良くならないだろう、と踏んで、侍女頭は自ら世話を焼くことにしたのだった。
もともと世話焼きな気質の彼女は、最近は侍女頭としての書類仕事や差配の仕事が多くて辟易としていたので、本領発揮とばかりにリンドウの世話をした。少し、楽しい気分であった所に、のんびりさせてもらっている、と言われて嬉しいばかりであった。
リンドウは、何故ここでのんびりできるのかと考えて、離宮にいた使用人たちには、常に監視をされている気がしていたことを思い出した。実際、そうだったのだろう。あの者たちは二言目には、ノバラ様のご命令でございます、しか言わないし、何をしていても、気が休まらなかった。騎士団に鍛練に行っているときだけ、気を抜いていられたような気がする。
「急がなくてはいけないのにな……。」
「いいえ。急ぐことはございません。姫様には、休養が必要でございます。」
侍女頭キキョウは、今、天候が穏やかであるのなら、リンドウがわざわざ塔へ行く必要はないのではないか、と思い始めていた。
この穏やかさは、妹君が行かれて、塔の御方に受け入れられたということなのだろう、と。
「側妃さま。リンドウ様は体調を崩しておいでです。昨日も、会えないと申し上げたでしょう?」
「目を覚ましたら、会わせてほしいの。まだ、寝ているの?もう四日目よ。それは本当なの?」
「我々が嘘を吐いていると?何のために?」
侍女頭の厳しい声がした。不敬とも取られかねない物言いは、いつも冷静な彼女には珍しい。
「いえ……。そういうわけではないの。ごめんなさい……。」
気弱な声が答える。これが、側妃の声なのだろう、とリンドウは思った。ぼんやりとベッドに寝転んで、どうしたものかと考える。
リンドウは、側妃シラギクと話したことは無かった。顔を合わせた覚えもほとんど無い。父が愛する妃。つまり、父は正妃である母を愛していないということなのだろう。母も、父が体調を崩した途端に、リンドウが住む離宮へとやって来た。リンドウは嬉しかったが、よく考えると、父を見捨てた、または、監視を外れて逃げ出した、とも取れる。その存在が母を離宮へ追いやったのなら、そんな人と話すことなど何も無いな……。
扉がノックされ、どうぞ、と返事をすると侍女頭が入ってきた。
「すみません。聞こえておりましたか。」
「起きていたから、構わない。」
「ご無理はなさりませぬよう。」
「ああ。何だかとても、のんびりさせてもらっているよ。不思議だな……。」
「それは、ようございました。」
侍女頭は、まるで一介の侍女のように、リンドウの側で世話を焼いてくれている。侍女頭としての仕事を補佐の者に少しずつ渡して、まるでリンドウの専属侍女のようであった。
世話を焼かれることに慣れていないらしいリンドウは、割りと何でも、自分でしてしまおうとする。体調の悪いこのような時でも、水差しを取ってほしいなどという要求をせずに、自分でベッドから下りてしまうのだ。ふらついて、見ている方が心配でたまらない。このような者を、その辺の侍女に任せる訳にはいかなかった。はじめの、風呂で倒れていた時も、手伝いはいらない、と言われた若い侍女が部屋でただ立って待っていたのだ。
鬱陶しがられても、こちらから世話を焼いていくくらいでないと、体調はなかなか良くならないだろう、と踏んで、侍女頭は自ら世話を焼くことにしたのだった。
もともと世話焼きな気質の彼女は、最近は侍女頭としての書類仕事や差配の仕事が多くて辟易としていたので、本領発揮とばかりにリンドウの世話をした。少し、楽しい気分であった所に、のんびりさせてもらっている、と言われて嬉しいばかりであった。
リンドウは、何故ここでのんびりできるのかと考えて、離宮にいた使用人たちには、常に監視をされている気がしていたことを思い出した。実際、そうだったのだろう。あの者たちは二言目には、ノバラ様のご命令でございます、しか言わないし、何をしていても、気が休まらなかった。騎士団に鍛練に行っているときだけ、気を抜いていられたような気がする。
「急がなくてはいけないのにな……。」
「いいえ。急ぐことはございません。姫様には、休養が必要でございます。」
侍女頭キキョウは、今、天候が穏やかであるのなら、リンドウがわざわざ塔へ行く必要はないのではないか、と思い始めていた。
この穏やかさは、妹君が行かれて、塔の御方に受け入れられたということなのだろう、と。
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