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31 初めての料理は
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二人で使うには大きいなぁ、と思っていた食卓に料理が次々と並んでいく。いつものスープとパンだけでなく、肉を焼いたものがあったり、サラダがあったりするのでとても気になるのだが、それどころではなかった。見知らぬ人間が二人、塔の中へ入って来ているのである。ヤクモの体は、かたかたと勝手に震える。怖い。……怖い。
イズモにしがみついて、深呼吸を繰り返す。イズモの匂いがして少し落ち着いたけれど、やっぱり寝室へ引っ込んで布団を被ってしまった方が良いだろうか。
そう思って、イズモから体を離そうとしたら、イズモが、ぎゅうと少しだけ強く抱き寄せてくれた。一人で布団を被るより、イズモの側の方が安心かも、と思い直して、ぺたりとイズモに寄り添う。ぽんぽんと背中を叩いてもらえば、大丈夫な気がしてきた。
今日は、昼寝から起きたらとても良い匂いがしていて、幸せな気持ちだったのに……。
ヤクモが良い匂いの元を探してみると、ヌイが料理をしていた。食事を作っているのだ!はじめは、少し離れて見ていたのだが、掃除の仕方と違って、なかなかに見えにくい。見よう、見ようと少しずつ近寄っているうちに、すぐ隣で覗きこんでいた。
ヌイは何も言わずに、気にしていない風で作業を続けた。お陰でヤクモは、それはもう真剣に、料理の様子を見ることができた。ぐつぐつと良い匂いのする鍋に、小さめに切った野菜が放り込まれていく。みじん切りにした野菜とひき肉を混ぜて捏ね、小さく丸くまとめた肉団子も鍋のなかに、ぽんぽんと入った。
鍋の中に食べ物が増えていくごとに、もともと良い匂いだったのが、更に良い匂いになって、ヤクモは何度も何度も口に溢れてくるよだれを飲み込んだ。
ヌイは楽しそうに笑いながら、料理をする。美味しそうだなあ。ヌイの手は、何でもできるなあ、と羨ましかった。
大きな塊の肉は、塩で味付けをして表面をまんべんなく焼いてから、大きな葉っぱにくるんで紐で結んで置いてある。冷めるまで置いてから、紐を解いて葉っぱも取って、薄く切る。
生の野菜を手でちぎって、大きな器に入れていく。
「ヤクモ様。これを全部、この大きさにちぎって器に入れてくれますか?」
途中でヌイは、ヤクモにその野菜を手渡した。目をぱちくりさせているヤクモの前に器を置いて、何でもないように、使い終わった調理器具を洗い始める。
ヤクモは、よし、と気合いを入れて野菜をちぎった。同じ大きさ、と言われたので、ヌイのちぎった野菜といちいち比べながら、一生懸命お手伝いしたのだ。
全部終わった時には、嬉しくて跳びはねたい気分だった。お料理をした。俺は料理の手伝いをしたのだ。
「ヤクモ様、丁寧にしてくれましたねえ。ありがとうございます。」
ヌイが笑って言ってくれて、ヤクモは天にも昇る心地だった。
自分で作った食事は、どんなに美味しいだろう。イズモにもミカゲにも食べてもらいたい。
なのに……。
ずっと良い匂いをかいでいたので、お腹は空いている。でも、知らない人を呼ぶなんて聞いてない。
「ヤクモ様。私の息子です。息子と息子のお嫁さん。私たちの子どもなんです。何にも怖いことはありませんよ。一緒に食事をいたしましょう。ね。ヤクモ様が一緒に作ってくださった料理を、ぜひ食べさせてやってくださいな。」
ヌイが、にこにこと笑って言ったが、やっぱり怖い気持ちは抜けずに、ヤクモはイズモから離れられなかった。
イズモの膝の上に座って食事の席に着いたが、顔を上げることもできず、スープを必死で飲み干して、寝室へ引っ込んでしまった。
イズモにしがみついて、深呼吸を繰り返す。イズモの匂いがして少し落ち着いたけれど、やっぱり寝室へ引っ込んで布団を被ってしまった方が良いだろうか。
そう思って、イズモから体を離そうとしたら、イズモが、ぎゅうと少しだけ強く抱き寄せてくれた。一人で布団を被るより、イズモの側の方が安心かも、と思い直して、ぺたりとイズモに寄り添う。ぽんぽんと背中を叩いてもらえば、大丈夫な気がしてきた。
今日は、昼寝から起きたらとても良い匂いがしていて、幸せな気持ちだったのに……。
ヤクモが良い匂いの元を探してみると、ヌイが料理をしていた。食事を作っているのだ!はじめは、少し離れて見ていたのだが、掃除の仕方と違って、なかなかに見えにくい。見よう、見ようと少しずつ近寄っているうちに、すぐ隣で覗きこんでいた。
ヌイは何も言わずに、気にしていない風で作業を続けた。お陰でヤクモは、それはもう真剣に、料理の様子を見ることができた。ぐつぐつと良い匂いのする鍋に、小さめに切った野菜が放り込まれていく。みじん切りにした野菜とひき肉を混ぜて捏ね、小さく丸くまとめた肉団子も鍋のなかに、ぽんぽんと入った。
鍋の中に食べ物が増えていくごとに、もともと良い匂いだったのが、更に良い匂いになって、ヤクモは何度も何度も口に溢れてくるよだれを飲み込んだ。
ヌイは楽しそうに笑いながら、料理をする。美味しそうだなあ。ヌイの手は、何でもできるなあ、と羨ましかった。
大きな塊の肉は、塩で味付けをして表面をまんべんなく焼いてから、大きな葉っぱにくるんで紐で結んで置いてある。冷めるまで置いてから、紐を解いて葉っぱも取って、薄く切る。
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「ヤクモ様。これを全部、この大きさにちぎって器に入れてくれますか?」
途中でヌイは、ヤクモにその野菜を手渡した。目をぱちくりさせているヤクモの前に器を置いて、何でもないように、使い終わった調理器具を洗い始める。
ヤクモは、よし、と気合いを入れて野菜をちぎった。同じ大きさ、と言われたので、ヌイのちぎった野菜といちいち比べながら、一生懸命お手伝いしたのだ。
全部終わった時には、嬉しくて跳びはねたい気分だった。お料理をした。俺は料理の手伝いをしたのだ。
「ヤクモ様、丁寧にしてくれましたねえ。ありがとうございます。」
ヌイが笑って言ってくれて、ヤクモは天にも昇る心地だった。
自分で作った食事は、どんなに美味しいだろう。イズモにもミカゲにも食べてもらいたい。
なのに……。
ずっと良い匂いをかいでいたので、お腹は空いている。でも、知らない人を呼ぶなんて聞いてない。
「ヤクモ様。私の息子です。息子と息子のお嫁さん。私たちの子どもなんです。何にも怖いことはありませんよ。一緒に食事をいたしましょう。ね。ヤクモ様が一緒に作ってくださった料理を、ぜひ食べさせてやってくださいな。」
ヌイが、にこにこと笑って言ったが、やっぱり怖い気持ちは抜けずに、ヤクモはイズモから離れられなかった。
イズモの膝の上に座って食事の席に着いたが、顔を上げることもできず、スープを必死で飲み干して、寝室へ引っ込んでしまった。
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