【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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30 塔の町の子ども

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「イズモ様とヤクモ様に紹介します。うちの息子のヒカゲとその嫁のトキです。」

 町での仕事を終えたヒカゲとトキを連れて、夕食時に塔へと足を運んだ。ヒカゲとトキも、緊張しているのが分かる。
 イズモ様の加護の無いまま塔へ入るのは、寿命を削る行為である。寿命を削るのは自分たちだけで良いと考えて、あまり連れてこなかったのは良くなかったな、とミカゲは思った。ミカゲの子どもの頃にはまだ塔にサクラがいて、王家からの給金もしっかりと払われ、親に付いてきて塔の周辺で遊んでいたので、イズモと接することへの緊張なども無かったのだ。

「ヒカゲです。よろしくお願い致します。」
「トキと申します。」

 二人が緊張しながら、出入り口の扉前に立つと、塔の中からイズモが、にこりと笑うのが見えた。ふ、とヒカゲとトキに加護の力が注がれるのが感じられる。二人は、不思議な感覚に顔を見合わせていた。

「よろしくね。イズモです。僕がここから出られないから、世話をかけます。」
「あ、いえ、あの……。」

 イズモ様のことを小さな頃から、塔の守り神、国の礎として習い、これまでの、カナメヅカの一族がお世話をしてきた記録を読んで育っているヒカゲは、四百年間国を守るイズモ様を神様と崇めている。花嫁の不在で寝込んでいたイズモ様。イズモ様の加護の無い我が子を塔へ入れることはできず、そのお姿を見るのは初めてなのだ。
 神様が実在した、とばかりに感動に震えるヒカゲと、ただひたすらに戸惑っているトキ。花嫁の不在が長過ぎたため、塔の町の子ども達ですら、この塔にイズモ様が本当にいらっしゃることを忘れかけているのだ。塔が見えてもいない場所に住む人々にはもう、この国の成り立ちを覚えている者も少ないのかもしれない。
 二人が加護を受けたので、安心して塔の中へ入る。
 ヤクモ様は予想通り、盛大に身を震わせた。思わず、といった風に、側にいたヌイにしがみついてしまっている。
 今日はヌイは、昼過ぎから塔の中で食事の支度をしていた。今までは、家で作ったスープと買ってきたパンを届けるだけだったので、調理の様子を見たことのなかったヤクモ様は、もうかぶりつきで見ていたようだ。随分とヌイの近くにいた。
 いつもの、掃除の様子を見ている時は、本人はこっそりと気付かれていないつもりで見ているので、離れて物陰から覗いている、と聞いている。だと言うのに今日は、しがみつける程近くにいて見ていらっしゃったのか。
 何となく微笑ましくなって、ヌイにしがみつくヤクモ様をじっと見ていると、はっとしたようにヌイから手を離して、わたわたとイズモ様の元へ走っていった。
 イズモ様が嬉しそうにヤクモ様を腕の中へ迎え入れて抱きしめると、ヤクモ様がほっとしたようにぺたりと寄り添うのが見えた。優しい神力がほわほわと塔の中に満ちる。
 ああ、きっともう色々なことが大丈夫なのだ、と思いながら、ヌイと共に大勢での食事を並べた。
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