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29 活発な花嫁
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「やっぱりもう一度、ヤクモ様をお医者さまに診て頂きたいわ。」
ヌイはミカゲに言った。それは、ミカゲも気になっていたことだったので、ああ、と頷く。
「助からないかもしれない、と言われたほどの状態からまだ、二週間しか経っていないのに、もう何でもないかのように歩き回っていらっしゃるでしょう?でも、いくら塔が神域だからって、ひびの入った骨がそんなにすぐにくっつくとは思えないの。」
「そうだな。」
「最近ね、私のお手伝いをしてくださるのよ。お掃除が気に入られたみたいで、それはそれは楽しそうにされているから、是非させて差し上げたいのだけれど、お風呂掃除をされているときに様子を伺っていたら、時々うずくまって、ぎゅっと目を閉じてらっしゃるの。痛いのじゃないかしら。」
「痛くても言えないしな。」
「きっと話せても、教えてはくれないでしょうね……。」
「そうなのか?」
「一度、大丈夫ですか、と声をかけてみたのだけれど、逃げられてしまって。イズモ様に、ヤクモ様が痛いところがないか聞いてみてほしいとお願いしてみたけれど、無いと嬉しそうに言われたっておっしゃってたわ。イズモ様も、ヤクモ様の行動を制限したくないけれど、痛みに鈍感だから心配だと。声も、そろそろ少しくらいは出せてもおかしくないんじゃないかしら?あれは、声の出し方を忘れているか、声を出さない方が良いと思っているか、その両方かだと思うの。」
「そうか……。確かに、喉の状態として声が出せるのかどうかは、医者に診てもらわないと分からないな。骨の具合も。」
「心の傷は見えないけれど、せめて見えるところだけでもきちんと診てもらって状態を把握したい。でも……。」
「塔からヤクモ様が、イズモ様無しで出られるか、だな。」
二人は、ため息をついた。
イズモに懐き、子が親に後追いするように、ずっとくっついていたヤクモ。イズモも嬉しげに、ヤクモの気のすむまで側にいて甘やかした。いや、現在進行形で甘やかしている。イズモの、底知れない甘やかしが功を奏したのだろう。満足したヤクモは、自分の領域だと認識した塔の中を一人で歩き始めた。塔の中にはイズモとヤクモしかいないということも、安心した材料の一つだろう。
ミカゲやヌイが訪ねて行くと、気付いたヤクモは大慌てでイズモの後ろにくっついていた。服の裾を握っていたり、背中に顔を埋めていたりする。人見知りの小さな子どものように見えて、少し違うとヌイは思っていた。
怯えている。
何となく、理由は分かる気がした。身体中の虐待の痕。細く小さな体格。
この塔の中に置いておくと、いつまでも人に慣れないかもしれない。けれど、ここが彼を癒してくれるのなら、それもいい。何も焦ることは無いのだ。塔の中にヤクモ様は嫁いできた。二人の神力はとても良く混じりあって、国に恩恵を授け始めている。二人には時間はたっぷりあって、いつかヤクモ様が、町に買い物に出られる日も来るだろう。
そうして、のんびり見守ろうと思っていたのに。
活発なヤクモ様は、じっとしていられない。
医者を塔へ入れることは避けたかった。塔へは誰でも入れるが、その事を知るのはカナメヅカの直系のみ。知る者が増えて、イズモとヤクモに危険が及ぶことはしたくない。
「まずは、ヤクモ様と会う人間を増やそうか。」
ミカゲとヌイは、跡取りの息子と嫁に、塔での仕事を引き継ぎする準備をしようと考えた。
ヌイはミカゲに言った。それは、ミカゲも気になっていたことだったので、ああ、と頷く。
「助からないかもしれない、と言われたほどの状態からまだ、二週間しか経っていないのに、もう何でもないかのように歩き回っていらっしゃるでしょう?でも、いくら塔が神域だからって、ひびの入った骨がそんなにすぐにくっつくとは思えないの。」
「そうだな。」
「最近ね、私のお手伝いをしてくださるのよ。お掃除が気に入られたみたいで、それはそれは楽しそうにされているから、是非させて差し上げたいのだけれど、お風呂掃除をされているときに様子を伺っていたら、時々うずくまって、ぎゅっと目を閉じてらっしゃるの。痛いのじゃないかしら。」
「痛くても言えないしな。」
「きっと話せても、教えてはくれないでしょうね……。」
「そうなのか?」
「一度、大丈夫ですか、と声をかけてみたのだけれど、逃げられてしまって。イズモ様に、ヤクモ様が痛いところがないか聞いてみてほしいとお願いしてみたけれど、無いと嬉しそうに言われたっておっしゃってたわ。イズモ様も、ヤクモ様の行動を制限したくないけれど、痛みに鈍感だから心配だと。声も、そろそろ少しくらいは出せてもおかしくないんじゃないかしら?あれは、声の出し方を忘れているか、声を出さない方が良いと思っているか、その両方かだと思うの。」
「そうか……。確かに、喉の状態として声が出せるのかどうかは、医者に診てもらわないと分からないな。骨の具合も。」
「心の傷は見えないけれど、せめて見えるところだけでもきちんと診てもらって状態を把握したい。でも……。」
「塔からヤクモ様が、イズモ様無しで出られるか、だな。」
二人は、ため息をついた。
イズモに懐き、子が親に後追いするように、ずっとくっついていたヤクモ。イズモも嬉しげに、ヤクモの気のすむまで側にいて甘やかした。いや、現在進行形で甘やかしている。イズモの、底知れない甘やかしが功を奏したのだろう。満足したヤクモは、自分の領域だと認識した塔の中を一人で歩き始めた。塔の中にはイズモとヤクモしかいないということも、安心した材料の一つだろう。
ミカゲやヌイが訪ねて行くと、気付いたヤクモは大慌てでイズモの後ろにくっついていた。服の裾を握っていたり、背中に顔を埋めていたりする。人見知りの小さな子どものように見えて、少し違うとヌイは思っていた。
怯えている。
何となく、理由は分かる気がした。身体中の虐待の痕。細く小さな体格。
この塔の中に置いておくと、いつまでも人に慣れないかもしれない。けれど、ここが彼を癒してくれるのなら、それもいい。何も焦ることは無いのだ。塔の中にヤクモ様は嫁いできた。二人の神力はとても良く混じりあって、国に恩恵を授け始めている。二人には時間はたっぷりあって、いつかヤクモ様が、町に買い物に出られる日も来るだろう。
そうして、のんびり見守ろうと思っていたのに。
活発なヤクモ様は、じっとしていられない。
医者を塔へ入れることは避けたかった。塔へは誰でも入れるが、その事を知るのはカナメヅカの直系のみ。知る者が増えて、イズモとヤクモに危険が及ぶことはしたくない。
「まずは、ヤクモ様と会う人間を増やそうか。」
ミカゲとヌイは、跡取りの息子と嫁に、塔での仕事を引き継ぎする準備をしようと考えた。
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