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23 本当はどうしたかったのだろう
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「リンドウ様!」
「リンドウ様、お戻りください!」
「姫様。」
当然のように、リンドウを探す声が聞こえ始めた。腰を抜かした者たちが復活したらしい。……もう限界だ。
「呼んで、ますよ?」
「二度と、戻らない。」
リンドウは噛みつくように言った。もちろん、ソハヤに落ち度はない。八つ当たりだ。いや、その言葉遣いが気に入らない。
「どう、なさるので?」
「その話し方を続けるのなら、お前の前からも姿を消す。」
そう言われても、ソハヤは混乱中だった。年若い騎士仲間だと思っていたリンネが、実は女で名前はリンドウだと言う。その名は、この国の者なら大体は知っているであろう、王の娘の名前である。実際、ひめさま、と呼ばれて探されている。
先日のリンドウ姫の誕生日パーティーの話は、噂で聞いていた。子爵家の三男で、お金がかかるからと騎士学校にも通わずに、騎士見習いとして騎士団に所属したソハヤが聞いたのは、護衛としてパーティー会場にいた先輩騎士たちの話である。
塔の花嫁として育てられていたリンドウ姫がついにお披露目されたが、ほとんど姿を見ることもなく下がってしまったこと。輿入れの日にちの発表はなく、妹姫が代わりに輿入れしたとの発表があったこと、くらいがソハヤの知る情報であった。
そしてリンネ、いやリンドウは逃げている。
何がどうなって……?
ソハヤがそんなことを思う間にも、リンドウを呼ぶ声は迫ってくる。
しばらく考えていたリンドウが、そちらへ体を向けて剣に手をかけた。まさか、と思っていると、その状態で気合いを込めた声を張り上げる。
「私は、二度と離宮へは戻らない。その旨、母へ申し伝えよ。これ以上、我が命に背くなら、斬る!」
びくり、と追ってきていた人々が体を硬直させた。幾人かはへたり、と座り込んでいる。ソハヤも、最も近くでその言葉を受けて体に震えが走った。
その言葉には従わねばならない、という気持ちが湧いてくる。逆らえない。
驚いて見つめるソハヤと視線を合わせたリンドウは、くるりと踵を返した。
「ソハヤ、まずは打ち合え。」
二人は、悠々と歩いて鍛練場へ向かったが、誰も追っては来なかった。
すっかり鈍っていたリンドウは、早々にバテた。その上、いらいらむしゃくしゃしていたので、その太刀筋は無茶苦茶であった。
「あー、もうっ。」
ソハヤに軽くいなされて、汗だくで、広い屋根付きの鍛練場の土の上に、大の字で寝転がる。
「おい、やめろ。そんなところで転がったら、髪を洗うのが大変になるぞ。」
「うるさい。」
「そんなにきれいな髪の手入れは、大変だろうに。」
「面倒なだけだ。」
「ふーん。」
「本当は、切ってしまいたいんだ。」
「そうか。」
「本当は……。」
ソハヤは、そう言ったきり、黙ってしまったリンネ、いやリンドウを見下ろす。リンドウは、腕で目元を隠していた。
泣いているのか……?
嗚咽が聞こえる訳ではない。涙が見える訳でもない。
でも何となく、リンドウが泣いている気がして、ソハヤはただ黙って横に腰を下ろした。
「私は、本当はどうしたかったのだろう……。」
リンドウがぽつりと呟いたのは、汗がすっかり引いた頃だった。
「リンドウ様、お戻りください!」
「姫様。」
当然のように、リンドウを探す声が聞こえ始めた。腰を抜かした者たちが復活したらしい。……もう限界だ。
「呼んで、ますよ?」
「二度と、戻らない。」
リンドウは噛みつくように言った。もちろん、ソハヤに落ち度はない。八つ当たりだ。いや、その言葉遣いが気に入らない。
「どう、なさるので?」
「その話し方を続けるのなら、お前の前からも姿を消す。」
そう言われても、ソハヤは混乱中だった。年若い騎士仲間だと思っていたリンネが、実は女で名前はリンドウだと言う。その名は、この国の者なら大体は知っているであろう、王の娘の名前である。実際、ひめさま、と呼ばれて探されている。
先日のリンドウ姫の誕生日パーティーの話は、噂で聞いていた。子爵家の三男で、お金がかかるからと騎士学校にも通わずに、騎士見習いとして騎士団に所属したソハヤが聞いたのは、護衛としてパーティー会場にいた先輩騎士たちの話である。
塔の花嫁として育てられていたリンドウ姫がついにお披露目されたが、ほとんど姿を見ることもなく下がってしまったこと。輿入れの日にちの発表はなく、妹姫が代わりに輿入れしたとの発表があったこと、くらいがソハヤの知る情報であった。
そしてリンネ、いやリンドウは逃げている。
何がどうなって……?
ソハヤがそんなことを思う間にも、リンドウを呼ぶ声は迫ってくる。
しばらく考えていたリンドウが、そちらへ体を向けて剣に手をかけた。まさか、と思っていると、その状態で気合いを込めた声を張り上げる。
「私は、二度と離宮へは戻らない。その旨、母へ申し伝えよ。これ以上、我が命に背くなら、斬る!」
びくり、と追ってきていた人々が体を硬直させた。幾人かはへたり、と座り込んでいる。ソハヤも、最も近くでその言葉を受けて体に震えが走った。
その言葉には従わねばならない、という気持ちが湧いてくる。逆らえない。
驚いて見つめるソハヤと視線を合わせたリンドウは、くるりと踵を返した。
「ソハヤ、まずは打ち合え。」
二人は、悠々と歩いて鍛練場へ向かったが、誰も追っては来なかった。
すっかり鈍っていたリンドウは、早々にバテた。その上、いらいらむしゃくしゃしていたので、その太刀筋は無茶苦茶であった。
「あー、もうっ。」
ソハヤに軽くいなされて、汗だくで、広い屋根付きの鍛練場の土の上に、大の字で寝転がる。
「おい、やめろ。そんなところで転がったら、髪を洗うのが大変になるぞ。」
「うるさい。」
「そんなにきれいな髪の手入れは、大変だろうに。」
「面倒なだけだ。」
「ふーん。」
「本当は、切ってしまいたいんだ。」
「そうか。」
「本当は……。」
ソハヤは、そう言ったきり、黙ってしまったリンネ、いやリンドウを見下ろす。リンドウは、腕で目元を隠していた。
泣いているのか……?
嗚咽が聞こえる訳ではない。涙が見える訳でもない。
でも何となく、リンドウが泣いている気がして、ソハヤはただ黙って横に腰を下ろした。
「私は、本当はどうしたかったのだろう……。」
リンドウがぽつりと呟いたのは、汗がすっかり引いた頃だった。
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