【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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19 幸せな日々

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 お風呂は、とても気持ちいい。
 ヤクモはうっとりとお湯に浸かる。ぬるめのお湯には、いつまででも浸かっていられる気がした。
 入りたいと言ったら、イズモ様がいつでも入れてくれる。楽しくて、いつまでも入っていたいくらいだ。
 けれど、嬉しくてたまらない気持ちがありすぎると、お風呂のあとで倒れてしまう。そうでなくても、お風呂に入った後は何時でも身体中の力が抜けて眠たくなった。
 でも、それで構わないらしい。倒れても座り込んでぼんやりしてても、怒られない。体を拭いて、服を着せてベッドへ運んでくれるのだ。イズモ様は本当に神様みたいだった。いや、神様よりもっと凄い。だって、神様はどんなに祈っても助けてはくれなかった。死なせてもくれなかった。何にもしてくれなかった。
 ヤクモはもう、イズモに夢中だった。
 スープの器を奪い取っても怒らない。パンを口に詰め込みすぎても呆れない。泣いても倒れても、怒らない。心配してくれているのが分かる。お風呂に入れてくれて、一緒に寝てくれる。
 
 ヤクモは、夜にベッドでよくうなされていた。潰された喉からは、ひゅ、ひゅ、と掠れた音がするだけだが、涙をぽろぽろとこぼしていたり、何かから逃げようとしてベッドから落ちたりと、大騒ぎであった。本人に意識は無いが、ずっと苦しそうな様子に心配で堪らなくなったイズモは、ヤクモを一晩中腕に抱いてなだめた。そうすると、ほっとしたようにすり寄ってきて穏やかな寝息が聞こえた。その上、翌日はヤクモの体調がものすごく良かったのだ。これはいい、と思ったイズモは、その夜からヤクモを抱いて寝ることにした。
 ヤクモは大体、食事に疲れるか、風呂に入って疲れるかして寝落ちしてしまうので、ベッドに連れていってそのまま同じベッドで抱いて寝た。二人で寝るには少し狭いかと思ったがそんなこともなく、イズモも気持ちよく熟睡した。ヤクモは幸せそうにくっついていて、その日から二人は当然のように一緒に寝るようになった。
 ヤクモは、口移しで蜜入りの水をもらったことが気持ちよかったので、寝ているイズモの口に、ちゅうと自分の唇を押しつけてうっとりしたりもする。ヤクモにはよく分かっていなかったが、こうしてくっつきあっていることで、神力がよく馴染みあって、イズモは絶好調になりつつあった。
 塔の封印は正常に働きはじめ、国は緩やかに回復していった。
 イズモもヤクモも、幸せだった。
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